研究概要 |
本研究は、気水界面や固液界面などの二次元的に規制された空間での錯形成を利用した表面錯体化学による分子集積体の創製とその機能発現を目指して3年間研究を行った.3年間の主な成果は,(1)レドックス活性なビス(ベンズイミダゾリル)ピリジン配位子をもつルテニウムおよびオスミウム錯体をホスホン酸基やチオール基をアンカーとしてもつルテニウム・オスミウム単核および二核錯体を新規に合成し,自己組織化による固体表面への集積化を行った.水溶液中でのプロトン共役電子移動によるルテニウム錯体系での電位シフトを利用して,アンカー配位子としてジスルファイドとホスホン酸基を有する同じ炭素数のルテニウム錯体の基板表面選択性をCVで測定したところ,ITO電極には亜リン酸基が,金電極にはチオールが選択的に吸着することがその電位からわかった.また,ルテニウムサイトがプロトン共役電子移動可能であり,種々のビスターピリジン配位子基で架橋したルテニウム・オスミウム二核錯体を合成し,ITO基板表面に固定した.pH1では0.67V vs Ag/AgClにOs(II/III),0.89VにRu(II/III)の二段の一電子酸化波がみられた。pHの上昇に伴い、ルテニウムの酸化波は負側にシフトするがオスミウムの酸化波はほとんど一定電位で変化しない。そしてpH5付近で二つの波は合体し、pH9では、まず0.38V vs Ag/AgClにRu(II/III)の酸化波がみられ、ついで0.67V vs Ag/AgClにOs(II/III)の酸化波がみられた。プロトン濃度に依存したプロトンゲート機能が観測された。また,ホスホン酸基をもつビス(ベンズイミダゾリル)ピリジン配位子が2個配位したビス型錯体を用いることで,固体表面に積層可能であることがUVスペクトルの吸光度変化ならびにAFM測定から明らかになった.また,Ru錯体のRu(II/III)酸化波の電流値が錯体の高さが20nmまでは直線的に増加することがわかった.(2)気水界面iにおいて両親媒性配位子2,6-ビス(オクタデシルベンズイミダゾリル)ピリジン(L18)をもつ錯体,[Ru(L18)(CN)3]n+の錯形成について検討した。このシアノ錯体のMLCT吸収帯は溶媒により大きくシフトする。また,金属イオンを加えるとMLCT帯が変化してシアノ基への金属イオンの配位を示している.この錯体は気水界面において良好なLB単分子膜となることがわかった。π-A曲線において,純水中での極限面積は0.65nm2/分子であったが,下層液に金属イオンを含む溶液を用いた場合には0.75〜0.78nm2/分子となり,分子極限面積の拡大が観測され,錯形成が界面で起ったことを示している.また、この単分子膜は種々の基板上にY型膜として累積できることがわかった。LB膜の吸収スペクトルはp-p*吸収帯の長波長シフトが見られ,分子間での会合があることを示している.FTIRによりシアノ基の伸縮振動は溶液からのキャスト膜の場合には2068cm-1に見られる.LB膜でも純水から作成した場合には大きな違いはみられない.ところが,銅イオンを含む溶液を用いた場合には,IRのv(CN)が溶液中で混合して作成したキャスト膜(2103cm-1)と界面でできる膜(2077cm-1)と大きく異なる.これはRu(L18)(CN)3錯体ではベンズイミダゾール環のπ-π分子間相互作用による会合化のために,界面である特定の方向のシアノ基が錯形成するためと推定した.
|