研究概要 |
フォトクロミック化合物のcis-1,2-dicyano-1,2-bis(2,4,5-trimethy1-3-thienyl)ethane(cis-dbe)、を有する4種の新規Ag(I)錯体([Ag_2(cis-dbe)(X)_2](X=CF_3COO(1),C_2F_5COO(2),C_3F_7COO(3),[Ag_2(cis-dbe)(CF_3SO_3)_2](4))の合成に成功し、いずれも単結晶X線構造解析にも成功した。1と2の両錯体は、cis-dbeのシアノ基およびチエニル基のSに4個のAgが配位することにより一次元鎖を形成している。1および4では、アニオンは一次元鎖内のAg同士を架橋しているが、2および3では、アニオンは隣り合う一次元鎖を架橋し、二次元シートを形成している。1の黄色錯体は405nmの光照射で、閉環構造の赤色に変化し、523nmにピ-クを有するスペクトルを与えた。これに523nmの光照射をすると再び黄色に戻り、523nmのピークが消滅した。2-4の錯体も同様にフォトクロミズムを示すことを明らかにした。 軌道エネルギーの計算結果より、HOMOからLUMOへ一重項励起した後、thienyl基が回転しながら、光閉環反応が起こり、この際にHOMO、LUMO間で軌道の対称性が反転うることを示した。またCI法による励起状態の反応解析は、H-dbe、F-dbeのHOMOからLUMOへの励起波長が、いずれも閉環体が開環体に比べ長波長側にあり、定性的には実験値と合致する結果を得た。置換基効果に関しては、閉環体の励起エネルギーが、cis-dbe>F-dbe>H-dbeの順であつた。その原因として、まず計算結果より、LUMOの軌道エネルギーは電子吸引性の強さの順(F>H>CH_3)に応じて下がっていること、またHOMOの軌道エネルギーは基底状態のエネルギーの順(F-dbe>cis-dbe>H-dbe)に応じて下がっていることが示された。その結果、HOMO-LUMO間のエネルギー差はcis-dbe>F-dbe>H-dbeになることが明らかにされた
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