プロトン濃度勾配からのエネルギー変換の化学の創造

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12440190
• 研究機関: 岡崎国立共同研究機構
• 研究代表者: 田中 晃二 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (00029274)
• キーワード: プロトン濃度勾配 / 分子内電子移動 / エネルギー変換 / 酸化反応 / 水の4電子酸化 / オキソ金属錯体

研究概要

キノン配位子を有するRu-OH_2錯体は溶液のプロトン濃度に依存してアコ基からプロトンを解離する。その際ヒドロキシル基あるいはオキソ基に生じた負電荷は分子内電子移動でキノン(Q)配位子に移動し、キノンはセミキノン(S)、カテコール(C)に還元される。その結果、形式的には錯体には1あるいは2電子の蓄積が起こる。たとえば、([LRu(Q)(OH_2)]^<2+>→[LRu(S)(OH)]^++H^+または[LRu(Q)(OH_2)]^<2+>→[LRu(C)(O)]^0+2H^+;L=3座配位子)。したがって、キノン配位子を有するRu-OH_2錯体はプロトン濃度変動により自発的な酸化還元反応を起こすことが可能な極めて珍しい錯体である。事実、イオン交換膜で仕切られたH型セルの両方に[LRu(Q)(OH_2)]^<2+>を加え、片方のセルに2等量のOH^-を加えると、2つのセルの間には1.2Vに達する起電力が発生し外部回路を通じて電流として取り出すことが可能となった。この反応では中和反応(H^++OH^-→H_2O:ΔG=-56.5kJ/mol)で放出される自由エネルギーの80%が電流として取り出すことが可能であった。一方、[LRu(Q)(OH_2)]^<2+>由来の[LRu(C)(O)]^0の酸化体[LRu(S)(O)]^+あるいは[LRu(Q)(O)]^<2+>のオキソ基は酸化力が強くシクロへキサジエン等の環状のジエン化合物から水素を引き抜き芳香族化合物を与え、酸化型のオキソ錯体からは[LRu(S)(OH)]^+あるいは[LRu(Q)(OH_2)]^<2+>が再生された。また、アントラセンから誘導される架橋配位子を用いて二つのRu-オキソ基を酸素-酸素結合が生成しうる距離に固定した2核錯体では、二つのキノン/セミキノンの酸化還元対と二つのRu(II)/Ru(III)の酸化還元対を利用することにより、極めて容易に水の4電子酸化による酸素発生が起こり、そのターンオーバーナンバーは錯体あたり35000に達した。

研究成果

• [文献書誌] 田中晃二,水川哲徳: "Selective Formation of Ketones by Electrochemical Reduction of CO2 Catalyzed by Ruthenium Complexes"Applied Organometallic Chemistry. 14. 863-866 (2000)
• [文献書誌] 杉本秀樹,田中晃二: "Ruthenium Terpyridine Complexes with Mono-and Bidentate Dithiolene Ligands"Journal of Chemical Society, Dalton Transaction. 57-63 (2001)
• [文献書誌] 和田亨,柘植清志,田中晃二: "Synthesis and Redox Properties of Bis(ruthenium-hydroxo) complexes with Quinone and Bipyridine Ligand as a Water-Oxidation Catalysts"Inorganic Chemistry. 73. 607-614 (2001)
• [文献書誌] 和田亨,柘植清志,田中晃二: "Oxidation of Hydrocarbons by Mono-and Dinuclear Ruthenium Quinone Complexes via Hydrogen Atom Abstraction"Chemistry Letters. 910-911 (2000)
• [文献書誌] 永田央,田中晃二: "Pentadentate Terpyridine-Catechol Linked Ligands and Their Cobalt(II) Complexes"Inorganic Chemistrt. 39. 3515-3521 (2000)
• [文献書誌] 柘植清志,栗原正人,田中晃二: "Energy Conversion from Proton Gradient to Electricity Based on Characteristic Redox Behavior of an Aqua Ruthenium Complex with a Quinone Ligand"Bulletin Of Chemical Society of Japan. 73. 607-614 (2000)