多孔性固体の細孔内における気体の毛管凝縮およびそれに伴う吸着ヒステリシスは、1800年代末から知られているにもかかわらず未だに全容が解明されていない問題である。1980年代末に発表された統計力学理論から細孔内の気液平衡の臨界温度はバルクの値よりも低いこと、また吸着ヒステリシスは細孔内臨界温度で消失することなどが示された。しかし、われわれはごく最近、シリンダー状細孔をもつ規則性メソ多孔体への各種気体の吸着・脱着等温線を温度の関数として測定することにより、細孔内臨界温度と吸着ヒステリシスの消失する温度とが異なることを示した。これらの結果を確かめ、さらに吸着ヒステリシスと細孔内臨界温度との関係を明らかにして、毛管凝縮現象の全容を解明するために、より広範な細孔径および形状を有する規則性メソ多孔体に対してバルク臨界温度に達する高圧領域での吸着等温線を測定する必要がある。今年度は、高圧対応型極低温冷凍機システム、真空排気装置、高精度圧力計などを購入して、30気圧まで使用可能な自動化低温・高圧吸着装置を作製した。現在、装置の性能試験を兼ねて直径4.2nmのシリンダー状細孔を有する規則性メソ多孔体に対する窒素の等温線を低温側からバルク臨界温度に向けて順次測定している。この細孔径に対するヒステリシス消失温度は78Kであった。しかし、1次の気液相転移である毛管凝縮はこれ以上の温度でも生じることがわかった。また、装置の製作と平行して、より大きなシリンダー状細孔を有するSBA-15や細孔入口が狭まったインクボトル型細孔を有するMCM-41などの規則性多孔体を合成している。SBA-15では、合成条件により液体窒素温度での窒素の吸着ヒステリシスが非常に大きな試料が得られた。吸着ヒステリシスが温度の上昇とともにどのように変化していくか興味深い。今後、これらの細孔形状と大きさが明確な規則性メソ多孔体に対する各種気体の等温線を順次測定していく予定である。
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