世界諸地域の人類集団の遺伝的特性を知ることは、現代人の移動や拡散の過程の解明だけでなく日本人の成立を知る上でもきわめて重要である。ユーラシア大陸や太平洋地域には、数多くの少数民族が知られ独自の風俗文化を有しているが各民族の起源や民族間の遺伝子レベルでの系統関係に関してはほとんど知られていない。本研究からは以下の点が明らかとなった。(1)世界諸地域の少数民族をDNAマーカーを用いて調べることにより、各民族の遺伝的特性及び相互の系統関係が明らかになった。(2)周辺の大人類集団での既存のデータと比較することで、各集団の起源や過去の移住の過程を明らかになった。(3)貴重な少数民族の遺伝資源をリンパ球のセルライン化のよって永久保存化を開始した。本研究では、未だ十分な調査のないシベリア、オホーツク、東南アジア、オセアニアの先住民族に着目し、各人類集団由来のヒトから、ミトコンドリアDNAの塩基配列を決定し、それらの多様性の比較による系統分析を行なった。またY染色体DNA多型を検索しハプロタイプを構築した。これらの分析結果より各人類集団の遺伝系統的な位置づけが明らかになった。さらに、既に成果のある他人類集団のデータと併せることにより、現代人集団における過去の移動、拡散の動態を明らかにし、最終的には現生人類の起源の年代をも考慮して、現在におけるヒトの多様化に至ったシナリオを構築した。さらに本研究では、アイヌ、琉球人などの原住日本人(縄文人)に由来すると考えられている集団の遺伝的起源を明らかにするため、本研究で分析した東南アジア、シベリアおよびオホーツクの先住民で得られた配列と比較することにより、縄文人では「東南アジア的要素」と「北東アジア的要素」を合わせ持っていることが明かとなり、日本人の成立過程に関する意義深い考察が可能となった。
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