研究概要 |
強い被食の後に新たに出現した葉で、二次代謝物が増加したり、窒素含有率が減少する誘導防御反応が知られている。環境要因に関係した誘導防御反応の違いが食葉性昆虫の標高依存的な大発生を引き起こすという仮説を検証するための実験を行った。野外のブナで標高の異なる5箇所で2000年に奪葉処理(100%奪葉)をおこない、コントロール個体と、窒素・タンニン・フェノールの含有率、LMA、含水率、被食度を調べた。奪葉前も後も、大発生する場所ではしない場所よりも葉の質がよいだけでなく、大発生する場所では奪葉前よりも奪葉後の方が葉の質が良くなくなり、より高い被食を受けていた。大発生しない場所では、奪葉の翌年には葉の質は悪化した。大発生する場所で誘導防御が弱いかあるいは逆に葉の質が改良されることが、標高依存的な大発生の原因のひとつと考えられた。このように、強度の奪葉が、新たに出現する葉の質をよくする場合があることが明らかにされたため、さらなる実験をおこなった。コナラとアベマキの当年生実生を異なる栄養条件で(0, 0.1, 1gN/wk)で育成し、奪葉処理(100%奪葉)を行った。奪葉処理後の個体は、葉の窒素濃度は奪葉前を上回り、個体窒素濃度ですらコントロール個体の値を上回った。この結果は無施肥個体でも見られた。これらの結果は、奪葉によって窒素を失う以上に、呼吸による炭素損失が大きかったことを示唆する。さらに、個体窒素濃度を個体C/Nバランスの指標とし、地上部/地下部比などのアロメトリーを比較した。しかし、奪葉個体の挙動はC/Nバランスの変化だけでは説明できず、別の観点が必要であることが示唆された。
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