色素体の分裂装置(これはPDリングともいう)は、多くの植物や藻類の葉緑体の分裂のくびれ部分に電子顕微鏡で観察される。この分裂装置は二重もしくは三重のリングから成っている。外側のリングは細胞質に、そして内側のリングは色素体内のストロマ内にある。また中間のリングは内包膜と外包膜の間にある。これらのリングを形成する物質はまだ明らかでなかった。しかし我々は進化の過程を考慮して細菌の細胞質分裂に関わるFtsZタンパク質が内側のリングの構成成分である可能性を指摘した(1998)。一方オスターヤングら(1998)はFtsZが内側と外側の両方のリングの構成成分であると主張し、意見は対立していた。 本研究では、原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeを使って外側のリングの微細構造を明らかにした。更に、その構成成分を明らかにするために、ネガティブ染色でチックしながら、同調培養した分裂期の細胞から分裂中の葉緑体を大量に単離した。次に界面活性剤のノニデットP40で処理し、ストロマ、チラコイド膜、そして内側と中間リングを可溶化し、外側のリングは無傷のまま沈査として得た。ネガティブ染色して見ると、外側のリングは直径5-nmの細いフィラメントの束であった。その内部では球状のタンパク粒子が4.8nm離れて並んでいた。FtsZタンパク質の局在をFtsZ遺伝子を分離し、抗FtsZ抗体を作製し、免疫ブロッティング法で調べた。その結果、FtsZタンパク質の反応は、その外側のリングを含んだ分画には現れず、可溶化された分画に現れた。さらに外側のリングを構成するフィラメントは従来知られている細胞骨格のフィラメントとも異なっていた。そのフィラメントは硬く、2Mの尿素で可溶化しなかった。このリングの候補として56kDaタンパク質を同定した。以上の結果は内側のリングがFtsZタンパク質を含んでいる可能性があるが、外側のリングの構成成分はFtsZではないことを示している。即ち、進化の初期において、内側のリングは、細胞内共生によってシアノバクテリアからもたらされたものであるが、外側のリングは宿主細胞核が作り出したものであると考えられる。
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