地球上に普遍的かつ多量に存在するNa^+はその必要性が動物と植物で大きく異なっている。これまで、Na^+の必要性が明らかでないことから、植物細胞におけるNa^+の働きや、Na^+環境の認識/維持機構についての研究はほとんど存在しない。多くの植物では、過剰のNa^+の存在が、塩害として成長に阻害的に働くことが強調されてきた。本研究では、これまでの実験事実を基に、植物細胞がNa^+を必要とするのはどのような条件か、Na^+を必要とするのはどのような機構か、Na^+環境の認識はどのように行われているか、Na^+濃度の調節はどのように行われているかを、生体膜輸送機構を中心に、細胞・分子レベルで明らかにすることを目指している。 本年度は、まずマングローブ培養細胞を材料に、外界Na^+濃度の違いによる細胞膜H^+-ポンプの活性変動の測定と生化学的解析を進めた。Na^+濃度の上昇とともに細胞膜H^+-ポンプの活性とタンパク質量の増加が見出された。このマングローブ細胞膜H^+-ポンプは、その阻害剤反応性が通常と異なることが見出されたため、現在その分子構造の解析を進めている。 オオムギを用いて、K^+欠乏下での生育におけるNa^+の役割を検討した。Na^+の存在はK^+欠乏による生育阻害を生育初期のある時期まで回避させることができる。この際のK^+とNa^+の細胞間、細胞内分布を単離細胞と単離オルガネラを用いて検討した。K^+欠乏の下で植物体に吸収されたNa^+は液胞に集中し、残存のK^+が細胞質に集められて生物活性を維持するという役割分担が証明された。現在、このNa^+とK^+の、細胞内での分配機構の検討を始めている。
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