研究概要 |
塩ストレスに対する植物の応答に介在する未知の機構を明らかにするために,分子遺伝学的な解析を試みた.シロイヌナズナ野生体が完全に枯死する塩ストレス条件下において生存できることを指標に,変異原処理したシロイヌナズナ実生から耐塩性突然変異体を選抜した.合計148,300個体から,耐塩性光合成生育突然変異体pst(photoautotrophic salt tolerance)を2系統得た. pst2植物体の耐塩性は,実生から植物体が成熟するまで維持されることを確認した.pst2は野生体に比べて緑色が薄いが,pst1が結実できない塩ストレス条件下でも結実可能であった.プロリンは適合溶質として,多くの植物において浸透圧調節の役割を担っていると考えられている.シロイヌナズナにおいてもプロリンが塩ストレスへの適応において重要な役割を果たしている結果が報告されている.これらの知見から,pst2突然変異体の耐塩性は細胞質内のプロリンの蓄積が増加しているのではないかと予想された.しかしながら,pst2において塩で誘導されるプロリンの量は,野生体のそれと差がなかった.本研究において,光照度が野生体の塩ストレスに影響を与えることが見い出された.生育に適した照度(約30μmolm^<-2>sec^<-1>)は,塩ストレス下において野生体の生育を大きく阻害し,照度の上昇はさらに塩ストレスを増長した.この結果は,塩ストレスによって光化学系から活性酸素が生じている可能性を示唆している.pst1は,活性酸素解毒系活性を上げることにより耐塩性になっている.一方,pst2は活性酸素に対しては,耐性にはなっておらず,他の耐塩性機構が関与していると考えられた.
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