ヨザルは真猿類中唯一夜行性であり、単一の赤-緑型錐体視物質しか有しない完全色盲と考えられている。哺乳類の赤-緑型視物賓はX染色体性であるが、ヨザルはY-14融合染色体に複数の不活型赤-緑視物質遺伝子を有することを前年度明らかにした。本年度、サザンハイブリダイゼーションおよび染色体に対する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法によって、単独で存在する標準型のY染色体は単一コピーの赤-緑型視物質遺伝子を保有していることを明らかにした。次にこの個体の末梢血DNAからゲノムライブラリーを作成し、X染色体性とY染色体性それぞれの完全長赤-緑型視物質遺伝子を単離して塩基配列を決定した。その結果、両遺伝子のタンパク質コード領域の塩基配列は完全に同一であり、スプライシングシグナル、TATA box、poly A付加シグナル等の非コード領域中の重要配列も保存されていることを明らかにした。このことはY染色体性の赤-緑型視物質遺伝子が機能していることを示唆していた。原猿類に関してはガラゴの桿体視物質遺伝子とcDNAを単離し、視物質を再構成し、吸収光を測定した。ゼブラフィッシュに関しては、9種類全ての視物質のcDNAを単離し、視物質再構成を行った。吸収光を測定した結果、赤型の2つのサブタイプは異なる最大吸収波長をもつこと、緑型の4つのサブタイプも互いに異なる最大吸収波長をもつことを明らかにした。これらの結果は小型魚類の赤・緑色覚が従来考えられていた以上に高度で複雑であることを示唆していた。
|