原子線を発生させるためには、一般的に動的に生成された気体の一部をごく小さな開口から取り出す方法が用いられている。しかしながら、この方法で得られる原子は熱的に分布しているため、速度分布は広がってしまうという難点があり、原子ビームを物質表面のプローブやエネルギー粒子源などの機能性ビームとして利用する場合、この性質が問題となる。本研究では、レーザー光による原子運動制御技術に注目し、超高速で周波数変調されたレーザーによる単色原子ビームの実現を目的としている。 通常のレーザー光源のスペクトルは、その基本的性質上モードと呼ばれる多数の狭スペクトルから成っており、レーザー光による原子運動制御に要求されるようなブロードなスペクトルとはなっていない。そのため、本研究ではまず、原子の自然寿命の逆数よりもはるかに高速で発振周波数が変化する超高速周波数変調レーザーの試作を行い、昨年度はその基本的特性を明らかにした。 本年度はこれらの成果に基づき、周波数が広がったレーザー光源を実際の原子ビームに照射し、原子速度の制御を試みた。原子速度分布は、別に用意した単一モードレーザー光の周波数を掃引し、原子からの発光強度をプロットすることで得られた。その結果、熱分布している原子速度分布がレーザー光照射によって変化することが認められた。超高速変調レーザーの中心周波数とスペクトル幅を変え、原子速度分布の変化を観測したところ、これらのレーザーパラメータに応じた変化が生じていた。すなわち、照射したレーザー光の周波数範囲に対応するドップラー速度を持つ原子集団の速度が低くなっている。このことは十分な密度の原子の速度分布が単色化されたことを意味する。
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