申請者はGa-Fe-As化合物磁性体を内包したGaAs薄膜に光を照射すると室温で磁化率が可逆的に変化する現象「光誘起磁性」を見出したがその起源は全く未解明であった。本研究は、なぜGaAs-Fe系において「光誘起磁性」が発現するのかを4年間で追究し、半導体・磁性体融合(複合)系による機能性ナノ構造を世界に先駆けて呈示することを目的としている。また、GaN系複合薄膜についても検討した。 様々な堆積方法でGa-Fe-As系複合薄膜を分子線堆積法で作製し、得られた試料を光導入SQUIDにより系統的に研究した。その結果、[GaAs(100nm)/Fe_3GaAs(50nm)/GaAs(100nm)]を一つのユニットとする堆積プロセスを基板温度600℃でGaAs(100)基板に堆積させて形成される薄膜において、従来の4-5倍の磁化率変化を引き起こす薄膜が得られることを見出した。ナノ電子ビームによる結晶構造解析と組成分析、ならびに広い範囲における磁性を調べた結果、試料表面部分100nmの領域にFe_3Ga_4多結晶が選択的に形成されており、この物質が光変調磁性を引き起こしていることを突止めた。Fe_3Ga_4はメタ磁性体金属として知られている物質であるが、この物質が光誘起磁性を示すことはこれまで報告されていなかった。様々な印加磁場と光照射パワーにおいて光照射実験を繰り返して調べた結果、光照射の熱発生で磁化率が増加する「熱モード」の寄与と、それ以外、すなわち、光励起に起因すると思われる「光モード」による2種類の発現機構が存在することを見出した。ちなみに、この薄膜素材の温度上昇は光照射パワー10mW当たり3-5Kと見積もった。実験データの総合的な解釈が正しければ、「光モード」で起こる磁化増加を示す世界初の発見である可能性が期待される。ただし、研究開始時に仮説として導入した「磁性微粒子間の相互作用の光変調」モデルについては見直しが必要である。光励起と磁性に関する原理の解明は今後の研究課題となる。物性研究と平行して進めた応用研究では、光磁化駆動カンチレバーを実験的に呈示し、全光MEMS開発への道を開いた。今後、Fe_3Ga_4単結晶薄膜ならびにドット集合体の挙動を探って、光モード磁化増加の原理と高速応答の可能性を解明したい。
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