研究概要 |
ハーフメタルとしてLa_<0.7>Sr_<0.3>MnO_3(LSMO)を適用したトンネル接合(基本構造:Co_<1-x>Fe_x/絶縁体障壁層/LSMO)を用いて、磁性体界面でのスピン偏極率に影響する要因を解析した。低温(4.2K)での接合の磁気抵抗効果(MR)特性の評価を通して、障壁層(SrTiO_3)の酸素欠損(高分解能ラザフォード後方散乱法により定量)、およびそれによりもたらされるLSMOでの界面変質(主として酸素欠乏)が,界面特性を劣化させる要因であることを明らかにした。また、MRのバイアス電圧(V)依存性から、Co_<1-x>Fe_x界面での局所状態密度スペクトルを求め、その第1原理計算の結果との対比により、Co_<1-x>Fe_x界面でバルクに近い界面電子状態が実現されていることを示した。さらに、MR-Vの温度変化から、マグノン散乱による影響が低温側で表れていることなどを明らかにした。しかしながら、LSMO接合では、強磁性キュリー温度T_c(360K)よりもかなり低い温度(200K)で、MR効果が消失していることから、この温度でLSMO界面のスピン偏極率が消失していることが明らかになり、室温でのスピン偏極率の解析のためには、より高T_cのハーフメタルが必要であることが分かった。 また、LSMOに替わる高キュリー温度(T_c)ハーフメタルとして,Sr_2FeMoO_6薄膜、およびFe_3O_4薄膜の作製とその基本物性の評価を行った。Sr_2FeMoO_6薄膜については、還元ガス雰囲気(Ar+H_2)中でのスパッタリングを用い、基板との格子歪みやその緩和過程が、磁化や伝導特性に与える影響を明らかにした。その知見を基に、完全格子整合バッファー層を導入することにより、理論値に等しい飽和磁化(77K)を持つエピタキシャル薄膜を得ることに初めて成功した。低温での飽和磁化が理論値に等しいことは、この薄膜の基底状態でのハーフメタル性を強く示唆しており、そのT_cが高い(〜420K)ことを考慮すると、室温においても高いスピン偏極率(P=0.7)が実現されていること意味している。また、よりT_cのマグネタイト(Fe_3O_4)についても、Sr_2FeMoO_6薄膜で開発した作製技術を適用することにより、この物質固有のVerway転移が観測される、高品質なエピタキシャル薄膜の作製可能であることを示した。これらの高T_cハーフメタルを利用した接合を実現するためには、還元雰囲気で安定な絶縁体障壁層の適用が不可欠で、窒化物系材料(AINなど)が有望であることを見出した。
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