本研究では、超高真空STMを用いて清浄表面を原子分解能で観察しながらSTM真空ギャップ中に電子定在波を励起する.電子定在波を励起するためには、STM探針と試料表面間に、両者の仕事関数よりも高い電圧を印加し、探針から電子を電界放射させる必要がある.この放射電子は試料面と探針先端で繰り返し反射され、特定の条件下では、真空ギャップ中に電子定在波が形成される.そのとき、微分コンダクタンス-印加電圧特性を測定すると、一連のピークが観察される.簡単な量子力学のポテンシャル問題を解くと、このピークの間隔は、試料近傍に拘束された電子定在波の特性を反映し、おもに試料表面の電界分布に対応することがわかる.そこで、そのピーク間隔から表面電界を推量した.探針を熱電界印加(T-F)処理すると、スペクトルの再現性が向上すること、探針の曲率によってスペクトルのピーク間隔が変わることなどを確認した.[011]方位のW探針の先端形状をT-F処理によりそろえて真空ギャップ中の電界の境界条件をそろえ、Au(111)、Si(111)、 Si(001)、Ge(001)面で微分コンダクタンス-印加電圧特性を測定した.得られた微分コンダクタンススペクトルのピークに注目すると、あたかも原子種の原子番号に依存したように、ピーク間隔が広がる現象が確認された.Au表面で電界強度がきわめて高く、以下、Ge、Siと続いた.このピーク間隔の変化から、原子種・表面構造による表面近傍の電界変化を推量し、原子ポテンシャル、電子密度、イメージ状態との関連を考察した.
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