近年化学・物理・エレクトロニクスの分野で注目を集めている有機超薄膜のウェットプロセスによる作製とSTMを用いた薄膜の分子レベルでの構造解析に関する研究の中で、フラーレン類に着目した研究を行っている。薄膜材料として期待されているフラーレンのウェットプロセスによるエピタキシャル膜の作製法として、単なる気水界面膜の移し取りであっても、基板-分子間相互作用が適度であるAu(111)表面ではエピタキシャル膜の作製が可能であることを見出した。また電気化学的に吸脱着が可能なヨウ素を修飾したAu(111)面では、ヨウ素を脱離しフラーレンと置換することで真空蒸着法を凌駕するクオリティを有するエピタキシャル膜の作製に成功した。これは大掛かりで高価なドライプロセスを用いなくとも、基板-分子間の相互作用を制御することにより簡単にエピタキシャル膜の作製が可能であることを示しており、非常に有効な手法の開発に成功したと言える。さらにフラーレンポリマーの前駆体であるフラーレントリマーのSTMによる構造決定を行った。スペクトル的には分析不可能であり、蒸着などの手法では壊れてしまうため、明確な構造決定ができていなかったフラーレントリマーを、気水界面膜移し取り法を用いて試料を作成することにより、直接STM観察を行うことでフラーレントリマーの異性体の構造決定に成功した。これにより、環状に閉じたフラーレントリマー異性体の存在が確認された。
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