研究概要 |
ナノ結晶組織材料のミクロな変形特性を解明するために、安定状態でBCC結晶構造を取るFeをモデル化した (A)有効媒質理論に基づくポテンシャル(EMTと略称する)、 (B)埋込み原子理論に基づくポテンシャル(EATと略称する) によって相互作用する原子系を考え、平均結晶粒径を(i)3.8nm,(ii)4.3nm,(iii)5.8nmのナノ多結晶体(原子数)60万個程度)を作成し、・単軸引張り特性評価、・繰り返し負荷による構造変化の検討を行うための分子動力学シミュレーションを行って次の知見を得た。 (1)結晶粒径が小さくなるほど強度(流動応力、極限強さ)が低下する(逆Hall-Petchの関係が成立する)。 1-1 全体的な変形特性に対しては、粒内変形よりも粒界すべりがより支配的である。 1-2 無拡散スイッチング機構(結果的にはAshby-Verrallスイッチング機構と同様の内部変形を生じる)による大変形を生じる。 (2)EMTは積層欠陥エネルギーを過小評価しすぎるため、Fe原子のミクロ的不均一構造特性を的確に捉えることが難しい。一方、適切にパラメータを設定したEAMは妥当な結果を与える。前者を(比較的)積層欠陥エネルギーの低い材料(EMT材と名付ける)を代表するものとし、後者を高い材料(EAM材)の特性を表すとして考察を進めると 2-1 EMTは材では、粒内すべり(転位、積層欠陥、特に後者が支配的)が顕著となる。 2-2 (修正した)EAM材では、粒界すべりによる変形調節機構が活発に作動し、粒内変形よりも粒界すべりの寄与が大きい。 (3)繰り返し荷重を負荷した下での挙動に関しては、 3-1 EAM材では、幾分、繰り返し負荷による硬化を伴う。再負荷時に顕著な硬化(降伏応力の上昇)を生じる。粒内において、転位の可逆的な挙動(運動や生成・消滅)が見られる。 3-2 EMT材では、繰り返しにより弾性係数の低下をおこす(初期に顕著である)と共に、弾性異方性が発現する。、これは、粒界変形が顕著であることとそれに密度変化を伴うことに起因すると思われる。部分転位(積層欠陥)から完全転位への不可逆的な変化が顕著に見られる。
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