本研究では、C_<60>薄膜の構造とマイクロトライボロジー特性、薄膜/基板界面の構造、C_<60>の成長機構を原子スケールで解析・検討し、マイクロマシンのマイクロトライボロジーをターゲットとした独自のアプローチを試みた。マイクロマシン等を対象としたマイクロトライボロジーでは、シリコン(ポリシリコン及びウェハ)やダイヤモンドライクカーボン(DLC)あるいはLIGA膜上へのファンデルワールスエピタキシーを成功させる必要がある。研究室に現有する装置に改造を加えて、室温から200℃までの温度範囲でC_<60>膜の成長を試み、MoS_2基板150℃において良好なエピタキシャル成長を確認できた。更に水素終端処理を施したSi(111)基板を用いた擬似ファンデルワールスエピタキシーを行ったが、この基板ではC_<60>は層状成長をとらず、柱状Islandが成長する事が確認された。本研究で用いた水素終端処理法では基板表面に3種の化学活性の異なる水素状態が存在するため、層状物質基板の場合のような、平滑で不活性な表面を得る事が出来ない事が示唆された。さらにC_<60>薄膜のモフォロジーは、層状成長、結晶状成長にかかわらず、いずれの場合も基板温度の上昇に伴う、ドメイン、Islandサイズの増大と密度の減少が観察された。さらに成長様式に関わらず蒸着量を増やすと多結晶化することが明らかとなった。一般的な結晶状成長では、微結晶の3次元的な合体による多結晶化が生じるが、本研究で行われたファンデルワールスエピタキシー法を用いた層状成長では、基板との相互作用が小さく異なる結晶方位のドメインが形成され、ドメインの成長に伴う2次元的合体による双晶の発生により多結晶化を生じる。そのため、より結晶性の良好なC_<60>単結晶薄膜を多層かつ広範囲に作成するには、結晶方位が同一方向となるようにドメインを層状成長させることが重要であることを示した。
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