現在、電力消費の昼夜間の不均衡を緩和するための手段の一つとして、ビルなどの空調に氷蓄熱が採用され始めている。これは、需要が少ない夜間の電気料金を昼間より安く設定し、この電力を用いて製氷を行い、昼間の冷房に使用するものである。水(氷)は身近な物質であり、安価で安全である上に、凝固・融解の潜熱が大きいという利点がある。しかし、その凝固・融解温度である0℃は、冷房目的にはやや低過ぎ、冷凍機動力の点からは問題がある。 本研究では、氷蓄熱を上回るエネルギー効率を実現するための物質として、クラスレート水和物に着目し、この物質を冷熱蓄熱材として使用する際に必要となる基礎的物性の測定を行った。諸条件を考慮した上で本研究で選択した物質は、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム(tetra-n-butylammonium bromide;以下ではTBABと略す)と呼ばれる有機物である。質量濃度0〜40%のTBAB水溶液を冷却すると、O〜12℃で凝固し、水和物の結晶が生成される。この温度は、水の凍結温度よりも有意に高く、冷凍機動力の大幅な低減が期待できる。なお付け加えるならば、生成された水和物結晶と残りのTBAB水溶液はスラリー状液体となり、流動性を保持する。本研究では、示差走査熱分析装置を用いて、水溶液濃度と凝固・融解温度および相変化潜熱の関係を求めた。また、相変化後の固相・液相の比率、両相の屈折率などを測定した。さらに、高倍率の顕微鏡により、水和物結晶の形態観察を行い、結晶の基本的な形態は細長い柱状であるが、生成条件によっては他の形態も取りうることを確認した。
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