研究概要 |
1.昨年度試作したドライビングシミュレータを用いて,若年者と高齢者(70歳以上の被験者6人)の運転行動について実験した.運転行動を調べる前に,ドライバーの認知,判断,運動に関する諸機能について,基礎特性を計測した.緊急回避実験として,前方車両が急停止した場合,交叉点で急に車が飛び出した場合,交叉点での右折車両が直進車を妨害した場合について,ドライビングシミュレータ前方スクリーンにプログラムした映像を投影し,ハンドル操作,ブレーキ操作でどのように回避するか調べた.車速は60km/sec,車間距離10m,20m,30mとした. 基礎特性と運転行動の関係を個人別,老若群別に分析し,交通事故に対する機能低下の影響の度合いを明らかにした. 運転中に注視点が前方正面からずれた場合における運転行動との関係を調べるために,視野角に関係する基礎特性と運転中にスクリーン端に数字を呈示し,数字を答えることで意識的に注視点をずらし,注視点の動きを眼球運動計で測りながら緊急回避実験を行った. 2.本研究では,実験刺激は視覚及び聴覚ともに暗算問題を用いて,視聴覚の相関特性を検討する.まず,認知心理学実験を実施し,視聴覚情報処理の反応時間特性を定量的に検討した.実験結果より,視覚反応時間は視覚刺激の難易度による影響が弱いが,聴覚刺激の難易度による影響が強いことはわかった.さらに,視聴覚の計算問題における脳の復活部位について,fMRI実験を用いて測定解析した。本研究の結果は聴覚からの情報が視覚情報処理に影響を及ぼすことが携帯電話の使用による交通事故の一因になる仮説を支持し,視聴覚メカニズムの解明にも有意義なデータになると思われる. 3.脳内の体性感覚認知過程を検討するために,体性感覚刺激後に生じる脳内電位を記録した.このような認知や記憶過程に関連する脳内電位は事象関連電位で短および中潜時成分は感覚関連の脳領域から,長潜時成分は非特異的な脳領域から発生する.まず,S-ERPに対する視覚刺激と眼球運動の影響を検討した.閉眼時に比べて開眼時には中潜時S-ERP(N30,N60)が有意に大きくなり,また,衝撃柱眼球運動や追視性眼球運動でもN30,N60が増大した.一方,体性感覚刺激と同時に聴覚刺激を加えると,体性感覚刺激のみに比べてS-ERPのN140が有意に増大した. 一方,両側の体性感覚刺激により,一側の体性感覚刺激に比べて長潜時成分(P200,P300)を増大させた.以上の結果は,脳内における多感覚の認知過程に相互作用があることを示唆している. 4.運転中のドライバーの意識レベル,注意レベルの低下を検知するために,動画像処理によりまばたきの閉眼時間変化から意識レベル低下レベルを推定する方法と,動画像処理により視線の動きの分布から携帯電話など思考集中レベルを検知する方法を開発した. 知覚・認知特性を考慮した表示方法の検討では,車載ディスプレイにおける提示情報量と視認時間との関係と見る人の視力に対応した表示方法を開発した.
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