近年の電力自由化に伴う新規電源の市場参入は、電力フロー分布の不確実な変化など事故波及の広域化を引き起こし易い状況を生み出す危険性がある。本研究では、事故の広域化を未然に防止するため、GPS(Global Positioning System)に基づいた多地点同時刻計測技術を利用して大規模電力システムの安定度をリアルタイムで評価する方法の基礎的研究を行った。研究成果の要旨は以下の通りである。 1.すべての発電機の回転子角と回転速度ならびに負荷変動の同時刻計測データから電力システム動特性をオンラインで同定し、同定した線形システムの固有値解析から電力動揺モードの特性を表す振動周波数と減衰係数を推定する手法を開発した。開発手法を東北電力(株)で使用されている実系統モデルに適用した結果、弱制動モードの特性を比較的良好な精度で推定できることが明らかになった。 2.長周期動揺モードに関して発電機群がコヒーレントに動揺するという電力システム固有の性質を利用して、そのモード特性の推定に有効な計測対象発電機を効率的に選定する手法を開発した。 3.東北管内の電力システムに配備されているGPSベースの多地点同時刻計測システムの実測データを使用して、送電線を流れる有効電力の変動を分析した。その結果、送電線の有効電力変動から負荷変動の確率分布特性を推定でき得ることが明らかになった。 4.同時刻計測データの高速処理による大規模電力システムのリアルタイム同定と動揺モード特性の推定を行うため、14台のPCをLANで接続した並列計算機環境を構築した。また、この並列計算機環境を用いて、競争環境における需給平衡と電力フロー制御を支援する電力取引情報収集エージェントのプロトタイプを開発した。 5.多数の小規模分散型電源が連系された将来の配電ネットワークの電圧制御方策として、需要家協力システムという新しい需要側管理方式を考案した。
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