研究概要 |
断面形状の異なる数種類のBi系2223相超伝導多芯テープ素線(以下,テープ素線と略記)を,平行に複数本フォーマー上に配置して簡単な集合導体を構成し,その交流通電損失を液体窒素温度(77K)で測定し,新しい交流通電損失計算法に基づいた数値計算結果と比較した。その結果,集合導体の通電損失は,テープ素線の配置のみならず断面形状やフィラメント数にも依存することを見出した。電磁気学的な考察により,この実験事実は,導体を構成するテープ素線内の電流分布が断面形状を反映して複雑に変化することに起因することが判明した。そこで,交流通電下でテープ素線から発生する交流通電損失の低減化に向けて,77Kで絶縁体のBi2201相酸化物や,銀-銅合金などの高抵抗バリア相を導入したBi系2223相超伝導テープ線材の開発を進めた。線材の作製は,矩形変形を行う2軸圧延法と通常1軸圧延法を組合せたpowder-in-tube法(以下,修正PIT法と略記)により行った。電磁界分布の計算結果を念頭に置いて試行錯誤を繰り返した結果,Bi2201や銀-銅合金等の抵抗性バリアをテープ面に平行に導入した場合には,交流通電下でBi系2223相超伝導フィラメント群の電磁結合がバリアを介して遮断され,これによって通電損失の大幅な低減が実現できることを発見した。とくに,Bi2201相をバリアに用いた場合には,バリアを導入しないテープ線材と比較して,損失値は約70%近く低減できることが判明した。その一方,実用上重要なバリア入りテープ線材の電流容量は,修正PIT法に含まれる最終焼成の際に,バリアとBi系2223相との間に化学反応が生じるため,1/4〜1/3程度に低下することも判明した。今後の課題としては,超伝導酸化物と反応しないバリア種の探索,線材作成プロセスの改善などが挙げられる。
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