研究概要 |
銀シースBi2223高温超伝導テープ線材は,液体窒素温度(77K)で高い臨界電流密度(J_c)を有し、フレキシブルで均一な長尺線材を作製できることから、都市部における地中送電ケーブル等への応用が期待されている。送電ケーブル等の自己磁界応用では、交流通電時に線材内で発生する損失(通電損失)の低減が必要不可欠である。これまでの我々の研究により、高抵抗酸化物材料をバリア層としてテープ面に平行に配置することにより通電損失を低減できることが実験的に明らかになった。しかし、バリア材料と超伝導体の機械特性の違いに伴う線材長手方向でのフィラメントのソーセージングや熱処理時における反応による線材の超伝導特性(特にJ_c)の劣化といった深刻な問題がある。これを解決するためには、超伝導特性に影響をおよばさず機械特性の良好なバリア材料の探索が極めて重要な課題となる。本研究では、バリア材料としてCa_2CuO_3酸化物に着目し、この材料が銀シーステープ線材の超伝導特性におよぼす影響を検討した。そして、Ca_2CuO_3バリアを導入した銀シース多芯テープ線材を試作し、Ca_2CuO_3酸化物のバリア材料としての有効性について実験的に評価した。Bi系2223相前駆体粉末にCa_2CuO_3酸化物を質量比で0〜5%の割合で混合した。示差熱分析による各前駆体粉末の融点測定の結果から、Ca_2CuO_3の添加が試料作製時の焼結温度にほとんど影響しないことを確認した。この前駆体粉末を用いて作製したテープ線材のJ_cは、3%までのCa_2CuO_3の添加に対して単調に増加する傾向を示した。さらなるCa_2CuO_3の添加に対し,J_cは若干減少するものの、添加量5%の試料においても添加無しの試料よりも高いJ_c値を示した。X線回折による組成分析の結果、Ca_2CuO_3はBi2223相と反応せず、副次相として試料中に僅かに残存するBi2212相などと反応してBi2223相に相転移させることが分かった。以上の結果より、Ca_2CuO_3はテープ線材の超伝導特性に悪影響をおよぼさないことが判明した。これを踏まえて、2軸圧延伸線法を用いてCa_2CuO_3をバリアとしてテープ幅広面に配置した多芯テープ線材を試作した。Ca_2CuO_3単体は非常に硬く脆いため、機械特性の向上を目的としてBi2212粉末を質量比で30%混合したものをバリア材料として使用した。光学顕微鏡による断面観察の結果、試料内の超伝導フィラメントが線材長手方向において著しいソーセージングを起こしていないことを確認した。バリア入り多芯テープにおけるJ_c(77K、自己磁界下)は、短尺試料において21,000A/cm^2と、バリア無しの同一構造のテープ(16,000A/cm^2)よりも高い値を得ることができた。更に、バリア層の導入によって、商用周波数領域での通電損失はバリア無しのテープ線材の40〜50%程度まで低減される結果が得られた。以上の結果から、Ca_2CuO_3酸化物はバリア材料として極めて優れた特性を持つことが判明した。
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