新しい交流通電損失計算法を用いた高温超電導パワーケーブルの試作と評価

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12450110
• 研究機関: 豊橋技術科学大学
• 研究代表者: 太田 昭男 豊橋技術科学大学, 工学部, 教授 (10124728)
• 研究分担者: 福永 哲也 岐阜工業高等専門学校, 電子制御工学科, 助教授 (50249794) ; 稲田 亮史 豊橋技術科学大学, 工学部, 助手 (30345954) ; 中村 雄一 豊橋技術科学大学, 工学部, 助教授 (20345953)
• キーワード: 超電導ケーブル / テープ素線 / 交流通電 / 交流損失 / バリア入り線材

研究概要

銀シースBi2223高温超電導テープ線材は、液体窒素温度(77K)で高い臨界電流密度(Jc)を有し、フレキシブルで均一な長尺線材を作製できることから、都市部における地中送電ケーブル等への応用が期待されている。送電ケーブルなどの自己磁界応用では、交流通電時に線材内で発生する損失(通電損失)の発生メカニズムを明らかにし、損失低減化を図ることが必要不可欠である。本研究では、Norrisの方法に基づいた数値解析法を改良・発展させ、任意断面形状を有する超電導線材(丸線、テープ試料)の通電損失の数値計算を行った。これにより、線材断面内の不均一なJcの分布が線材内の電流分布および通電損失特性におよぼす影響を明らかにした。通常の銀シース加工法を用いて銀シース単芯および多芯テープ線材を作製し、各線材の通電損失特性の測定・評価を行った。また、走査型ホール素子を用いて測定したテープ線材表面の捕捉磁界分布から、これらのテープ線材の断面幅方向におけるJc分布を定性的に見積もり、これを考慮して各テープ線材の通電損失特性の解析を行った。主に、圧延加工時に生じるフィラメント形状の不均一性に起因して、各試料の通電損失値は楕円断面超電導テープの損失理諭値から大きくずれる結果を示すが、そのうち、テープ線材断面幅方向に沿って中心部分のJc値が端部よりも低い値を示す場合、損失値は理論値よりも著しく増大することが判明した。
これらの問題を解決するため、2軸圧延と1軸圧延を組み合わせた矩形変形法により、超電導フィラメントが線材断面内において列状にブロック化された構造を有する銀シースBi2223多芯テープ線材を作製し、通電損失特性の測定・評価を行った。商用周波数領域における損失の主要因は、作製方法や線材形状には関係なく、超電導フィラメント内で発生するヒステリシス損失であった。しかしながら、フイラメント配置の制御を施した多芯テープ線材では、高抵抗パリア層を導入することなく、通常の銀シース加工法で作製した多芯テープ線材と比較して約40〜70%程度の損失低減が可能であることが明らかになった。このメカニズムを詳細に考察するために、実際の線材形状を考慮して、各試料の電流分布および通電損失密度分布の数値計算を行った。その結果、矩形変形法で作製した多芯テープで観測された損失低減は、前述したフイラメント配置の制御により、テープエッジ近傍のフィラメントで発生する損失の抑制(エッジ効果の抑制)に起因することが判明した。
以上の結果から、銀シース多芯テープ線材における通電損失を低減するためには、バリア層を導入する前の段階において、(1)試料内のJc値が局在しないような加工方法および線材形状の工夫、(2)フィラメント配置の最適化によるエッジ効果の低減が必要不可欠であると考えられる。

研究成果

• [文献書誌] R.Inada, S.Sakamoto, P.X.Zhang, A.Oota, H.Fujimoto: "Influence of lateral critical current density distributions on AC transport losses for Ag-sheathed (Bi, Pb)-2223 multifilamentary tapes with different filament arrangements"Material Research Society Symposium Proceedings. 689. 193-198 (2002)
• [文献書誌] R.Inada, A.OOta, H.Fujimoto: "Influence of locally-varying J_c distributions on AC transport losses for superconductor wires and tapes with various cross-sections"Physica C. 378-381. 1133-1137 (2002)
• [文献書誌] T.fukunaga, A.Tanaka, R.Inada, A.Oota: "Numerical calculations on magnetic field and AC transport self-field losses for multi-layer superconductor cables"Physica C. 378-381. 1138-1142 (2002)
• [文献書誌] R.Inada, P.X.Zhang, a.Oota, H.fujimoto: "Influence of cross-sectional geometry and lateral J_c distribution on AC transport losses for Ag-sheathed Bi-2223 tapes"Physica C. 382. 117-121 (2002)
• [文献書誌] 坂元周作, 張平祥, 太田昭男: "走査型ホール素子顕微鏡を用いたメートル級銀シースBi2223超電導テープー線材の非破壊診断"電気学会諭文誌A. 121-A巻6号. 591-596 (2002)
• [文献書誌] P.X.Zhang, C.S.Li, L.Zhou, R.Inada, A.Oota: "The effect of J_c distribution on transport a.c. losses for Ag-sheathed Bi2223 tapes"Physica C. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] A.Oota, R.Inada, N.Inagaki, P.X.Zhang, H.Fujimoto: "A progress in reducing AC transport self-field losses of Ag-sheathed Bi2223 tapes by a rectangular deformation using two-axial rollers"Physica C. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] A.Oota, K.Inada, N.Inagaki, P.X.Zhang: "Reduction in AC transport self-field losses for Ag-sheathed Bi2223 tapes by changing the filament arrangements"IEEE Transactions on Applied Superconductivity. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] R.Inada, N.Inagaki, Y.Ogawa, A.Oota, P.X.Zhang: "AC transport losses for Ag-sheathed (Bi, Pb)-2223 tapes prepared by rectangular deformation process"IEEE Transactions on Applied Superconductivity. (印刷中). (2003)