量子井戸の共鳴トンネル遷移を利用した共鳴トンネルデバイスは、HEMTなどの2Dデバイスや、JJデバイスを超える最も高速なデバイスに分類され、GHzからTHz帯の将来に渡る高速化の要請に応え得るデバイスとして期待される。これまで、このトンネルデバイスは、高い障壁が得られるIII-V系デバイスとして発展してきた。Si/SiGe系トンネルデバイスを実現すれば、Siをベースとした新しい超高速集積化デバイスのジャンルを展開できることが期待されるが、1988年にSi/SiGe系RTDが発表されて以来、その性能指標である負性抵抗領域の電流の山対谷比(PVCR)が低いまま(室温で≦1.2)であった。研究代表者は1998年、理論的予測から、Si/SiGe系RTDに初めて電子トンネルと2重量子井戸(多重量子井戸)の組み合わせを適用し、PVCRを室温下で従来比6倍の≧7.6に高めることに成功した。本研究では、さらに高性能Si/SiGe系RTDの実現を目指して、量子井戸構造、プロセス技術に重点を置き検討した。その結果、歪緩和バッファー表面の結晶性が負性抵抗特性に大きく影響することを見出し、高い表面結晶性を有するアニールした薄化2層バッファー、および高Ge濃度のSiGe層を挿入したバッファーを提案した。電子トンネル型と2重量子井戸(多重量子井戸)RTDに高表面結晶品質バッファーを組み合わせることで、これまで困難と考えられていたIII-V系RTDと同等以上のPVCR≧180を室温で達成することに成功した。この結果はまた、SiGe系RTDでは非弾性散乱が少ないという重要な物理機構を実証している。本成果により、SiGe系を用いて、III-V系RTDと同等以上のRVCR特性の得られることが実証され、今後のSi/SiGe系トンネルデバイス展開に極めて大きな駆動力を与えたことになる。
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