極薄磁性薄膜の強磁性Hall効果に着目し、これを利用した新しい磁化特性評価法を開発した。また、薄膜中の磁化の面内成分による、伝導キャリアのスキュー散乱に起因する面内Hall効果は面内成分磁化の2乗に比例する。このことは、外部印加磁場によって磁化される薄膜中の面内磁化成分と垂直磁化成分が磁場に対して偶奇の異なる対称性を持った電圧出力として観測されることを意味する。このことを利用して、次世代の超高密度磁気記録方式である垂直磁気記録技術において使用される、二層膜媒体のHall電圧観測により記録層磁化と裏打ち層磁化を分離して磁化過程を評価することに初めて成功した。これは、これまで困難であった複合構造磁性膜中の各磁化の独立した評価を可能とする技術であり、今後の発展が期待できる。また斜め印加磁場の状況での磁化をベクトル的に評価することにも成功しており、磁化粒子間の磁気的相互作用を評価する技術として使用できることを実証することにも成功した。一方、強磁性Han効果の大きな薄膜材料を探索する中で、H12年度に購入した四磁極対向カソード型スパッタ源を用いて作製したPtシード層によるCo-Cr-Ta/Pt二層膜は薄い膜でも良質な結晶配向性を維持し、それによる高い垂直磁気異方性を発現させることに成功した。一方、垂直磁気異方性が高く角形比も1に近いCo/Pt多層膜やCo/Pd多層膜の異常Hall効果についても詳細な検討を行い、ベクトル磁化的な相互作用評価を行うことにより、これらの膜中の磁化粒子間の磁気的相互作用が垂直方向に強い相関を持っており、交換結合的な磁化粒子間の相互作用と強い垂直磁気異方性による効果であることを示唆する結果を得ることにも成功した。これらのことより強磁性Hall効果を用いた不揮発性メモリー素子に適した磁化特性と磁化粒子間相互作用を有する薄膜の開発指針を得ることに成功したと考えている。
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