超伝導回路中の単一磁束量子を情報担体とする単一磁束量子論理回路は、演算の高速性、低消費電力性の面で半導体論理回路を凌駕する性能を有し、次世代の高速高密度集積回路の基本技術として注目されている。また、これらの単一磁束量子が持つ量子的側面は、従来のブール関数を基礎とする論理回路と異なり、量子を演算の基本とする新奇な論理回路方式を生み出す可能性を秘めている。 本研究では、非ブーリアン系の論理表現である二分決定グラフ(binary decision diagram、BDD)を利用した単一磁束量子論理回路の構成方法について検討を行い、単一量子集積システムの実現を目指した。 平成12年度は、主にBDDに基づく単一磁束量子論理回路の基本セルの最適化とそれらの動作検証を行った。平成13年度は、これらの成果を踏まえて、BDD単一磁束量子論理回路の大規模化を目指し、マイクロプロセッサシステムの要素システムを製作し、その特性を評価した。最終年度では、これまでに確立した単一磁束量子論理回路の設計技術を基礎として、マイクロプロセッサプロトタイプの設計と試作を行った。設計したマイクロプロセッサは、ビットシリアルアーキテクチャに基づく8ビットマイクロプロセッサで、7つの命令、32バイトのメモリ空間を有し、クロック周波数16GHzで動作する。これらのマイクロプロセッサをこれまでに開発したトップダウン設計環境を用いて設計し、ロジックシミュレーションによりシステムの16GHzでの正常動作を確認した。また、レジスタファイル、ALU、プログラムカウンタ、コントローラ等のマイクロプロセッサコンポーネントを試作し、16GHzでの動作実証を行うことに成功した。 以上の研究により、単一磁束量子論理回路を利用した大規模集積システムの実現が可能であることを明らかにした。
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