電子透かしアルゴリズムの安全性評価手法とバイオメトリクスへの応用に関する研究

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12450157
• 研究機関: 早稲田大学
• 研究代表者: 小松 尚久 早稲田大学, 理工学部, 教授 (30195846)
• 研究分担者: 稲葉 宏幸 京都工芸繊維大学, 工芸学部, 助教授 (40243117)
• キーワード: 電子透かし / 線画像 / ハイブリッド電子透かし / 電子透かしの復元 / バイオメトリクス / 音声 / LSP / 耐性評価

研究概要

1.バイオメトリクスを対象とする透かし生成手段
本年度は、音声を対象としてその発声メカニズムの一部である調音に透かしを埋め込むことで、放射後の音声波形に対して間接的に透かしを埋め込む電子透かしの生成手法に関して、実際に音声を用いた評価実験を行った。本提案では調音を表すパラメータの一つであるLSPから作成するコードブックに変更を加えることで、透かし入りの声道モデルを生成する。しかしながら、単にLSPを操作しただけでは、透かし埋め込み前後のLSPに誤差が生じ、透かし情報を抽出する際の誤りに結びつくことを確認した。このため、連続する音声フレームに透かしを埋め込み、かつLSPの周波数成分の変化を考慮することにより誤りを軽減する手法を提案して、評価実験を行った。ATR音声データベースの短文章50文について約6bit/secの透かしを埋め込んで確認したところ、約95%の抽出率が得られた。
また、CELP音声符号化の処理過程に本提案方式を粗み入れる検討を進めるとともに、誤り訂正符号を用いた透かし情報の抽出率向上手段について基本的な検討を行った。
2.透かしアルゴリズムの生成と評価
本年度は、前年度に引き続き、個人情報をディジタルコンテンツに電子透かしとして埋め込むための基本的手法の開発と、埋め込まれた情報を種々の改ざんから保護する手法に関する基礎的研究を行った。
個人を認証する手法のひとつに指紋画像を用いる手法があるが、指紋画像が外部に流出した際にその流出経路を明らかにできる手法を検討した。具体的には、指紋画像を線画像と考えて、これに前年度に開発をした線画像への埋め込みアルゴリズムを用いることにより必要な情報の埋め込みを行う。埋め込みを行っても指紋画像に与える影響は僅かであり、指紋認証には影響を及ぼさない。
同時に、各種電子透かし手法の種々の改ざんに対する耐性を評価し、その安全性を高める手法についても検討した。前年度は、静止画像の電子透かし手法に対する攻撃を画素値直接攻撃と幾何的攻撃の2つに分類し、それぞれに耐性を有する電子透かし手法の開発を行った。今年度はこの手法をさらに改良し、画素値直接攻撃と幾何的攻撃の双方が同時に行われた場合にもある程度の耐性を有する電子透かし(ハイブリッド電子透かし)を構成可能であることを明らかにした。
また、透かしの復号アルゴリズムが想定している以上の幾何的攻撃を受けて、復号が不可能となったコンテンツの復元についても検討をした。これは、攻撃を受けた画像と、原画像とを比較し、最適化手法を用いて復元を可能とする方法であり、従来、復号が困難であったような幾何的攻撃に対しても効果を有することが確認できた。

研究成果

• [文献書誌] 川添 慎, 稲葉 宏幸: "幾何学的改変画像からの電子透かしの復号に関する検討"2002年暗号と情報セキュリティシンポジウム予稿集. Vol.II. 891-896 (2002)
• [文献書誌] 金城和志, 稲葉 宏幸: "線画に適した電子透かしの提案"2002年暗号と情報セキュリティシンポジウム予稿集. Vol.II. 897-902 (2002)
• [文献書誌] Yasushi Yamazaki, Naohisa Komatsu: "A Secure Communication System Using Biometric Identity Verification"IEICE Trans. Info. & Syst. Vol.E84-D, NO.7. 879-884 (2001)
• [文献書誌] 西郡豊, 田口洋一, 江島公志, 小松尚久: "分散協調処理による人物追跡システムに関する検討"電子情報通信学会技術研究報告. OFS2001-51. 7-12 (2002)
• [文献書誌] 小松 尚久: "バイオメトリクス個人認証技術と標準化動向"Computer Today. No.106. 65-71 (2001)
• [文献書誌] 畑田充弘, 小長井靖, 小松尚久他: "発声源に着目した電子透かしの生成手法に関する検討"2002年電子情報通信学会総合大会予稿集. A-7-9(印刷中). (2002)