研究概要 |
1.バイオメトリクスを対象とする透かし生成手段 音声を対象としてその発声メカニズムの一部である調音に透かしを埋め込むことで、放射後の音声波形に対して間接的に透かしを埋め込む電子透かしの生成手法について昨年まで基礎的な検討を進めてきた。今年度は、これまでの成果に基づき、ITU-T勧告G.729を対象として実際に音声を用いた評価実験を行った。すなわち、透かしを埋め込む音声からG.729符号器内で抽出したLSPを埋め込む情報に合わせて透かし"0","1"を表すCBを用いてベクトル量子化(以下VQ)を行う。この時、線形予測及びMA(移動平均)予測VQの影響から透かしの強度を考慮して、連続するSフレームに対して1ビットの情報を埋め込む。また、透かしの入っている音声から符号器内の演算よりLSPを抽出し、フレーム毎に透かし"0","1"を表すCBとの距離比較を行い、Sフレーム内での判定結果の頻度から最終的に埋め込まれたビットを読み出す。この結果LSPの変化割合Rを0.5としてSの変化によって抽出精度は透かし情報"0"が97~100%、"1"が73~100%程度であり、音声品質とともに変化する。再度G.729によって符号化した後の抽出精度は、透かし情報"0"が3~4%、"1"が11~18%低下し、MP3圧縮では"0"が3~5%、"1"が11~12%低下する結果が得られた。誤り訂正符号の適用による抽出精度向上に関する検討は今後の課題として残されている。 2.透かしアルゴリズムの生成と評価本研究では、各種電子透かし手法の種々の改ざんに対する耐性を評価し、その安全性を高める手法について検討した。まず、静止画像の電子透かし手法に対する攻撃を画素値直接攻撃と幾何的攻撃の2つに分類し、それぞれに耐性を有する電子透かし手法の開発を行った。そしてこの手法を改良、一般化することにより、種々の電子透かし手法を有機的に組み合わせることで、種々の改ざんが同時に行われた場合にも耐性を有する電子透かし(ハイブリッド電子透かし)を構成可能であることを明らかにした。 また、透かしの復号アルゴリズムが想定している以上の幾何的攻撃を受けて、復号が不可能となったコンテンツの復元についても検討をした。これは、攻撃を受けた画像と、原画像とを比較し、最適化手法を用いて復元を可能とする方法であり、従来、復号が困難であったような幾何的攻撃に対しても効果を有することが確認できた。 さらに、本研究で開発した電子透かし手法の個人認証への応用を検討した。個人を認証する手法のひとつに指紋画像を用いる手法があるが、指紋画像が外部に流出した際にその流出経路を明らかにできる手法を検討した。具体的には、指紋画像を線画像と考えて、これに線画像への埋め込みアルゴリズムを用いることにより必要な情報の埋め込みを行う。埋め込みを行っても指紋画像に与える影響は僅かであり、指紋認証には影響を及ぼさないことが明らかになった。
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