本研究の今年度の成果は、独立性を仮定している信号の間にも実際にはかなり大きな相関がみられることがあり、その相関性が信号分離フィルタの設計に悪影響を及ぼしている問題への解決方法を提案したことである。本研究では、まず各周波数成分間の独立性について実験的に調べた。その結果、信号全体では独立とみなせる場合であっても、周波数成分ごとにみると必ずしもそれが成り立たないことが多いことを示した。独立成分分析では必ず独立になるように分離する。しかし、信号の一部だけを取り出して観測すると、信号分離フィルタの劣化のために、分離した信号同士の相関がかえって強くなることを実験的に示した。そこで、相関の強さがある一定基準を上回る場合には、相関の強い部分を信号分離フィルタの設計に用いないこととし、その評価を組み入れた繰り返しアルゴリズムを考案した。すなわち、従来法による分離フィルタの設計→得られる分離信号の相関度評価→一定基準以上の相関を持つ信号成分の同定→その部分を除いて分離フィルタを再設計→得られる分離信号の相関度評価→…という逐次繰り返し推定法を新たに提案した。判定基準の閾値についても、その決定法についてのアルゴリズムを示した。実際の音声信号を用いて分離実験を実施し、アルゴリズムの動作を解析し、想定どおりの動作を行うことを確認した。また、従来の独立性を仮定するだけの手法に比べて7dB近いSN比の向上が達成できることを示した。
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