研究概要 |
本研究の目的は,ヒトの皮膚と同等の柔らかさおよび機能をもつ人工的な皮膚を開発し,そこから得られる情報に基づいて静摩擦覚機構を実現することである.目的を達成するための具体的な内容に沿って,1年目は,静摩擦覚に関連が深いヒトの触覚(機械)受容器の力受容特性を模倣した2種類の人工機械受容器を人の皮膚と同等に柔らかい組織の中に作り込むというものであった. この目的に対し,まず,人工機械受容器として用いるトランスデューサとして,PVDFフィルムトランスデューサ(以降PVDF)を選定し,これに様々な周波数の応力を加えたときの検出特性を詳細に調べた.その結果,周波数の増加につれて,応力の1次時間微分特性から2次微分特性に移行する興味深い周波数特性が得られ,その折れ点周波数が検出回路の入力インピーダンスの調整によって変更できることが,シミュレーションおよび実験によって確認された.また,検出感度S/N比によって評価した結果,本目的に対し,PVDFを適用可能であることが分かった. また,ヒトの指紋および指紋内部に2列に並んだ触覚受容器の配置に学ぶ柔軟な人工フィンガの構造を提案した.フィンガの表面には9個の指紋が並び,フィンガ全体として曲率を持っている.各指紋の下部には応力変化を検出するためのPVDFフィルムあるいは変位検出のためのひずみゲージを45度に傾けて配置することになる.動作原理を確認するために,有限要素法を用いた動的接触解析および実際に製作したフィンガを用いた実験を行った.これらの結果,本フィンガを用いれば接触領域端部の指紋の初期局所滑りに基づくひずみ状態を精度よく検出できることを確認した.したがって,本フィンガの考え方を用いれば,静摩擦覚の検出および把持力の制御を行うことが可能である.
|