研究概要 |
現在風力発電量の予測には線形モデルと呼ばれるモデルが広く使われている.このモデルは急峻で複雑な地形上に適用した場合,風速の減速を予測できず,平均風速を過大に評価する問題がある.これに対し,方程式を線形化しない非線形モデルが剥離を伴う急峻な地形上の流れ場を正確に予測することができ,12年度には非線形モデルの開発を行った.しかし非線形モデルを実地形上の流れの解析に適用するにはいくつかの解決すべき問題点がある.(1)まず実地形上の流れを解析するためには,連綿と連なる地形の一部を取り出す際の境界処理手法が確立される必要がある.(2)そして非線形モデルを実務に使用するには16風向の計算が1日以内で完了することが望まれているのに対して,現在の非線形モデルは1風向の計算に1日以上を要している.(3)さらに複雑地形上の流れに関しては平均風速や乱れの鉛直分布に対する非線形モデルの予測精度が明らかにされていない問題がある.以上のことを踏まえて,13年度では非線形モデルを複雑地形上の流れの解析に適用する際の問題点を解決し,複雑地形に適用可能かつ実用的な風況予測モデルを開発すると共に,その予測精度の検証を行った. (1)まず側面の境界処理方法としては地形上の任意断面における流量が保存する手法を提案し,従来の境界処理による風速の過大または過小評価問題を解決し,実地形の全ての部分を用いて計算した速度場と一部を取り出して計算した速度場はほぼ一致するという結果を得た.また上流の境界では対象領域と同じ程度の大きさのバッファ領域を設置することを提案し,上流の地形の影響を正しく反映させ,かつ付加計算量を最小にする上流境界処理方法を実現した.(2)次に非線形モデルの数値解法においては,大規模線形連立方程式における従来の解析法について詳細な比較検討を行い,短時間かつ安定に計算を収束させることのできる残差切除法を用いることを提案し,1風向に対して1時間程度での計算を可能にし,十分実用に使えるレベルに達した.(2)最後に12年度に得られた複雑地形における平均風速及び乱れの詳細な実験データを用いて,モデルの予測精度の検証を行った.その結果,今回開発した局地風況予測モデルの予測誤差が10%程度であることと,非線形モデルが風速の減少を的確に予測できることを明らかにした. 13年度では非線形モデルを実地形上の流れの解析に適用する際の境界処理問題を解決し,解析速度を従来の手法の20倍以上に高めた.その結果10km四方,100万メッシュの領域の全風向の解析を1日以内で行うことを実現した.本研究で開発された局地風況モデルは風力発電量予測の実務にも利用できるものであり,今後の日本の風力開発に貢献すると期待される.
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