研究概要 |
(平成12年度の研究成果報告) 実際の社会資本整備においては,予算配分や関係者間調整システムの非効率性,用地取得過程における合意形成の長期化等により,開業が当初の計画よりも大幅に遅延することが多い.事業の遅延は,当初の計画では得られるはずであった社会的便益を喪失させたり,建設費用を増加させる等の影響を及ぼすが,計画全体の時間を管理することによって損失の発生を回避する方策は,上記のコスト削減施策などに比べ,従来ほとんど議論されてこなかった.可能な限り計画通りに進行させるという努力にとどまり,遅延による損失が計測されることも少なく,事業を促進する制度の改善等も検討されてこなかった. このような背景を踏まえ,平成12年度中の研究では,社会資本整備に対して時間管理概念を具体的にどのように導入していくべきかを模索するための最初の試みとして,以下の三点を明らかにした. 第一に,実際のプロジェクトにおいて,事業の遅延により社会的損失がどの程度生じているのかを把握する.事例として,高速道路と鉄道の二つの事業を対象として経済的・財務的損失額の試算を行った.事業費の十数パーセントから約1.5倍の損失が生じている可能性があることを確認した.これにより,時間管理概念の導入による事業適正化の意義が十分に大きいことが明らかになった. 第二に,社会資本整備の各プロセス,具体的には予算配分から供用後の管理までの各段階において,どのような要因によって事業の遅延が生じているのかを把握する.具体的には,各プロセスがどのような法制度によって時間的に規定されているのかを体系的・網羅的に整理する.その一方で,関係者へのヒアリング等を通じて,法制度そのものの実際の運用実態を把握した. 最後に,以上の分析結果を踏まえつつ,社会資本整備の各プロセスにおいて,今後時間管理のために導入すべき具体的制度案の検討を行った.
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