研究概要 |
従来,交通計画のための人の行動データ収集では,被験者に対するアンケート調査を実施し,被験者の想起により過去の行動を記録するという方法が用いられてきた.しかしこの方法では,行動の位置と時刻に関する調査精度に限界があった.一方,近年ではGPSや携帯電話を利用した位置特定サービスが商用化され,様々な利用が可能となってきている.本研究の目的は,移動体通信システムの位置特定機能を用いた精度の高い交通行動データの収集方法の開発にある.PHSの位置特定サービスを利用した都市空間での人の移動をシームレスに観測するシステム(オンライン型とオフライン型)が平常時の日々(day-to-day)の行動観測とイベント時の行動観測に適用できることを確認した.移動体通信によって得られる位置特定データは,そのままでは行動分析に利用できないため,それを交通行動データに変換するための変換アルゴリズムを開発・改良した.具体的には,移動・滞在の識別とネットワーク上での経路特定である.このアルゴリズムにより,従来の紙ベースでの行動調査と同様に,トリップの起点と終点、出発時刻,到着時刻,経路を取り出すことがより高い精度で可能となった.大阪市内の実道路ネットワークでの観測データを用いて,これらのアルゴリズムの再現性を検証した結果,移動と滞在の識別では90%以上の再現率を示すなど,良好な結果を得た.また,大阪市内でのイベント参加者を被験者とする行動調査等により,イベント時の交通行動調査への適用可能性を検討した.その結果,都市施設内での滞留状況や会場周辺での流動状況の把握には,移動体による観測データが有効に使えることを確認した.
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