発がんの過程には、イニシエーションの作用に加えてプロモーション作用が働くことが必要であると考えられている。本研究では、イニシエーション活性の指標としてチャイニーズハムスター肺細胞を用いる染色体異常試験を、またプロモーション活性の指標としてマウス繊維芽細胞を用いる形質転換試験を行う。この研究は、塩素処理水について、バイオアッセイ結果と副生成物の生成・変化過程を検討することで、水質管理の場に応じた水質指標の活用方法を示すことを目的とするものである。 これまでに、バイオアッセイ結果と副生成物濃度の値の大小の関連を検討してきた。一方、水質基準値は、遺伝子障害性発がん物質の場合、生涯発がん率をもとに設定されている。すなわち毒性は、ある瞬間の大きさというよりは、本来、積分値から評価されるべきものである。この観点から本年度は、水域における時系列的変動の測定を行った。調査対象としては、琵琶湖南湖、およびやや汚濁の進んだ地点として淀川の一地点(枚方市地点を想定)を選定し、1ヵ月に1度程度採水して検討を行った。バイオアッセイを実施するとともに、指標物質濃度の変動を測定した結果、クロロホルム等がプロモーション活性の指標として適していることを示した。 一方、自然水として琵琶湖水を対象とし、その塩素処理水の有害性を検討した結果、塩素処理後のイニシエーション活性の低減とプロモーション活性の増大がみられた。非2段階形質転換試験結果から、給配水系統内では、発がんに関連する有害性は低減する傾向にあることを推定した。上記の塩素処理の過程における副生成物の濃度変化を測定した結果、トリハロメタン類は指標物質として不適当で、MXが適していることがわかった。
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