本研究は作業者の視覚特性の個人差を考慮した明視評価に関する研究の一環として実施したものである。本研究の成果は、若齢者から高齢者などの視覚的弱者にまで適用可能であり、安全で快適な明視環境計画に有効に資するものである。主な成果は以下の通りである。 1.生活視力の実態と環境による視力の変化について明らかにした。視力には年齢差や各年齢層内での個人差が大きいが、各背景輝度での視力(保証視力)と最大視力の比(視力比)には個人差が無いことを見出し、個人の視認能力の視標として最大視力が有効性を示した。更に、視力比と最大視力による保証視力の予測方法を示した。 2.視認実験結果に基づいて、最大視力と文書の読み易さの関係を検討し、読み易さは文字寸法と最大視力の相対的関係によって決まることを見出した。これを相対視力と定義し、相対視力を用いることで、個人の最大視力、文字寸法、輝度対比、背景輝度の4変数に対する読み易さの予測式を求めた。 3.文字視対象の各構成要素(対比、形、配列、字体)、環境条件(背景輝度、視距離、観察方向)、および観察者条件(年齢、視力)の読み易さへの影響が全て文字寸法の影響(等価文字寸法)に置換できることを確認し、各条件の等価文字寸法への換算方法を示した。これによって、各条件の読み易さへの影響度の比較が可能となった。 4.等価文字寸法(物理条件)と最大視力(個人の視認能力)から読み易さの評価式を呈示した。 5.屋外標示物や、日常生活品の説明書きの明視性に関与する物理的条件の実測を行い、その設置環境や文字条件の実態を把握した。一つの標示物には、複数の大きさの文字や色が使われているが、それら輝度対比は0.5以上であり、実在の文字標示物はほぼ読み易さ評価法の適用範囲内に分布していることを確認した。 6.実際の文字標示物の明視性を評価するには、大きさや対比が異なる複数の文字群の明視性を総合的に評価する手法の考案が必要であるため、構築した読み易さ評価法を基に、物理条件が輻輳している場合の読み易さを数量化し、観察者の視認能力に応じて各標示物の明視性を評価する方法、ならびに複数の標示物が存在する空間全体の明視性を評価する方法を提案した。 7.最後に、評価法に組み込まれていない諸要因の取り扱いを、実験や調査の結果に基づいて考究した。
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