研究の目的:高齢化難聴や聴覚障害者を対象とし、従来の話声理解の研究を下地に、今回は音響を対象に、音楽堂での伝達支援としての補聴器と磁気ループ席の有効性を検証した。 研究実績:聴覚障害を含めうる音楽堂で実際の演奏時に使用実験を行った。音楽堂は補聴器T性能(ステージ音が直接補聴器に通じる仕組み)と連携した磁気ループ席のある音楽堂(東京芸術劇場)を使った。音楽は実演の交響楽(第九、歌劇ペリアスとメリザンド等)で、被験者は筑波技術短期大学の卒業生など聴覚障害をもち社会参加している人達、及び高齢期の聴力減退を伴いながらも定期演奏会会員の方や音響学者・音楽堂設計者等の御協力を得た。先ず(1)音楽享受の体感を筆談で聞込み調査し、(2)同時にその座席での補聴器の有無による音楽全曲の時間別音圧変化を騒音計で計測記録し、また、(3)同時にステージで集録した音楽全曲のテープを同様の時間別音圧変化表に再現し、(4)これらを被験者の聴力損失または、補聴器装填時の音圧レベルで切り、被験者が聴きうる物理的音を残し、(5)被験者の音楽享受の体感聞込み表現と比較し考察した。特に聞き取れない音の欠落時、音楽をどう受け止めているかを注目分析した。(6)この空白を埋めるために、視覚活用による補完が求められている。そこで、被験者が音楽を聴きながら何を見たがっているかを把握し、分析をすすめた。今回は音楽堂で実演時に眼球運動計測装置を持ち込めず、予備調査に終わった。一方、磁力配線不備による音圧減を発見し、この原因究明の結果、補聴器の改良と磁気ループの配線改良により、音圧減を防ぐ案も試み、音楽享受のよりよい方向もつかめた。 このように、聴力減退者が磁気ループと補聴器を活用することにより、目・耳により音楽をどのように享受しているかのメカニズムを物性の計測値と、音響心理学者などの意見を吸収しながら、音楽堂の磁気ループ席の有効性と活用方法を建築計画的にかなり把握した。
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