研究概要 |
準結晶は、これまでの結晶学の常識を覆す新しい規則性を有する金属物質として、数多くの固体物理学者の注目を集めてきた。これまでの系統的な構造研究によって、たとえば正10角形準結晶は、5回対称原子カラムを基本構造とすることが解明されているが、主としてカラム内の遷移金属の分布に関する基礎的情報が欠如していることに起因し、特異な電気的特性の発現メカニズムに関する議論は不充分である。本研究グループは,この現状を打破するため、たとえ近接する原子番号を有する遷移元素が共存する場合でも,的確に構造的な情報を分別できるX線異常散乱法を駆使して,原子カラム内の遷移元素の分布決定を行うことを目的とする。 本年度は,補助金にて購入したイメージングプレート搭載異常散乱装置を導入し,本装置の基本性能および解析ソフトウエアの整備を中心に行った。予備実験の結果,低エネルギー側の分光特性が,異常分散効果を効率的に利用する目的には部分的に不十分であることが確認できたため,現在分光システムの改造を行っている。また具体的な研究に関しては,本装置および放射光源を併用しAl-Fe-Cu系5回対称カラム内の遷移元素の分布を決定した.この異常散乱の実験によって,CuがAl席の一部を置換していることを定量的に解明できた。これは,これまで推定されてきた,遷移元素およびCuは類似の挙動をするとの仮説を覆す新しい発見である。また,現在Al-Co-Ni系で,最も基本的な準結晶カラム構造を有する良質な試料の作成に成功し,異常散乱法を用いた構造解析を実施中である。
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