研究概要 |
薄膜材料の内部摩擦の振幅依存性を解析して,薄膜を基板に積層したままの状態で,微小塑性に基づく力学応答を非破壊で定量的に評価することを目的とする.そのためには,(a)薄膜材料の測定データから薄膜のみの内部摩擦を評価し,(b)薄膜における内部摩擦の振幅依存性から転位による塑性歪と応力の関係を正確に定量する必要がある.本研究では,これらの理論を整備することにより内部摩擦の解析手法を確立し,Si基板上に積層したAu薄膜の力学物性の評価に応用した. 熱酸化したSi基板上に密着層のMo(膜厚0.02μm)を積層して,その上にAu薄膜(膜厚0.2,0.3,0.5μm)を成膜した材料について内部摩擦の振幅依存性を測定した.内部摩擦の構成式を適用して,薄膜材料の測定データから薄膜のみに起因する内部摩擦を評価した.Au薄膜の内部摩擦は4〜6×10^<-2>であり,AlやCu薄膜の場合よりかなり大きな値である.この試料を673Kの真空中で熱処理すると,Au薄膜の内部摩擦は膜厚が小さいほど大きく減少して1〜3×10^<-2>の大きさになり,振幅に依存しない内部摩擦は膜厚が大きいほど高くなる傾向を示した.一方,内部摩擦が振幅に依存し始めるひずみの値は熱処理によってほとんど変化していない.薄膜の振幅依存性データを微小塑性理論に基づいて解析することにより,10^<-9>のオーダーの塑性歪を応力の関数として算出した.AlやCu薄膜では膜厚に反比例して変形応力は増加したが,Au薄膜では膜厚が小さくなるほど減少した.このような異常軟化現象はTiを密着層としたAu薄膜でも観測されており,酸化膜を形成しない貴金属薄膜に特有の変形様式によるが,熱処理によって内部摩擦が大幅に減少したことから,表面-粒界拡散が関係した応力緩和に起因すると考えられる.
|