研究概要 |
薄膜材料の内部摩擦の振幅依存性を解析して,薄膜を基板に積層したままの状態で微小塑性に基づく力学応答を非破壊的に評価する方法を確立し,Al薄膜,Cu薄膜およびAu薄膜の力学物性評価に応用した結果,以下の結論が得られた. (1)内部摩擦の構成式により,薄膜材料の測定データから薄膜のみに起因する内部摩擦を計算できる.その結果,Al薄膜やCu薄膜の内部摩擦はそれぞれバルクの実測値と同じオーダーであることを確認した.しかし,薄膜における内部摩擦の振幅依存性はバルクと比べて2桁も高い歪領域で観測されており,膜厚が小さいほど振幅に依存する成分は高歪側に移行した. (2)内部摩擦の微小塑性理論に基づいて振幅依存性データを解析することにより,10^<-9>のオーダーの塑性歪を応力の関数として算出できる.Al薄膜やCu薄膜では膜厚が小さくなると急激に塑性変形しにくくなっており,変形応力の膜厚変化は低温ほど顕著であることがわかった.さらに結晶粒径が膜厚以上の大きさの場合,微小塑性の変形応力は膜厚に反比例して変化する.このような膜厚効果は,薄膜表面と薄膜/基板界面で両端を固定された転位が張り出して往復運動することに起因する. (3)Al薄膜やCu薄膜における膜厚効果とは異なり,Au薄膜の変形応力は膜厚が0.5μm以下になると逆に減少した.このような異常軟化現象は酸化膜を形成しない貴金属薄膜に特有であるが,熱処理によって内部摩擦が大幅に減少したことから,表面-粒界拡散が関係した応力緩和に起因すると考えられる.一方,Au薄膜の表面をTi膜で被覆すると,Al薄膜やCu薄膜と同様に微小塑性の変形応力は膜厚に反比例して変化した.Au薄膜の変形応力はAl膜よりも小さいが,膜厚効果は転位の張り出しモデルによって説明することができる.
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