研究概要 |
炭化珪素は耐熱性、耐食性に優れていることから、ガスタービンや原子炉などの熱機関において極限環境下で用いられる次世代の材料として期待されて久しい。しかし、優れた特性を持ちながら破壊靭性に劣ることから実用化が著しく遅れているのが現状である。本研究グループでは、本質的に脆性な高融点金属や金属間化合物の脆性が、粒界微細組織の制御により著しく改善しうることを既に報告している。そこで本研究では、炭化珪素の靭性向上のために粒界微細組織の制御方法に関する知見を得ることを目的として以下の研究を行った。 炭化珪素の積層欠陥エネルギーは不純物あるいは焼結助剤の添加により著しく変化しうる(川原ら,日本金属学会誌,62(1998),246)ことに着目し、微量元素の添加による粒界微細組織制御の可能性を検討した。本研究では、Siと同一周期で価数の異なるMg,Al,Pを添加した試料を超高純度β-SiC粉末を用いてホットプレス法(2373K,40MPa,5min.)で作製した。また、材料の粒界微細組織は材料プロセスにも存在するので、最近、新しい焼結方法として注目されている放電プラズマ焼結(SPS)法によりSiC焼結体を作製した。放電プラズマ焼結の条件は、2273Kおよび2073K,50MPa,5min.とした。得られた焼結体の粒界微細組織をFE-SEM/EBSP/OIM結晶方位自動解析装置を用いて定量的に評価し、粒界微細組織に及ぼすドーバントの影響、焼結プロセスの影響について調査した。さらに、硬度、破壊強度、破壊靭性値などの力学物性を評価し、粒界微細組織との関連を検討した。 (1)粒界微細組織に及ぼす材料プロセスおよびドーバントの影響: ホットプレス焼結SiC(HP-SiC)では粒組織は比較的均質で平均粒径が1〜2μmであるのに対し、放電プラズマ焼結SiC(SPS-SiC)では異常粒成長が起こり、1〜100μm程度の結晶粒が混在している。特にMgドープ材では異常粒成長が顕著である。平均粒径はP-dope、Al-dope、Mg-dope SiCsの順に大きくなり、このことはドーパントとSiとのイオン半径差が大きい元素ほど粒成長を促進することを示唆している。また、粒界性格分布はHP-SiCではΣ29までの対応粒界の頻度が30〜35%程度であるのに対し、SPS-SiCでは35〜45%と高くなることが明らかとなった。 (2)力学特性に及ぼす粒界微細組織の影響: 破壊応力およびピッカース硬度は平均粒径が小さくなるにしたがい高くなるが、HP-SiCとSPS-SiCでは粒径依存性に不連続があり、SPS-SiCの方が高いレベルへ遷移する。また、対応粒界頻度が高くなるにしたがい破壊応力、硬度が高くなることが見出されており、粒径依存性の遷移は対応粒界の依存頻度に起因するものである。一方、破壊靭性値は3.5〜4.5MPa√<m>程度であり、粒径の増加とともに大きくなる傾向がある。またピッカース硬度と同様に粒径依存性に不連続があり、対応粒界の依存頻度が高くなると破壊靭性値は逆に低くなる。このことは破壊抵抗の高い対応粒界が増えることにより、粒界破壊によるクラックの偏向効果が小さくなるためと推察される。
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