研究概要 |
炭化珪素は耐熱性,耐食性に優れていることから,ガスタービンや原子炉などの熱機関において極限環境下で用いられる次世代の材料として期待されて久しい.また,最近では耐摩耗性材料としてメカニカルシールやすべり軸受けなどの機械部品として実用化され始めている.近年の研究から,摩耗特性(トライボ特性)は,材料表面層における粒界微細組織と密接に関連していることが明らかにされており,粒界微細組織あるいは粒界の化学構造を制御することにより,トライボ特性の向上が期待される.そこで本研究では,β炭化珪素に周期律表上で同一周期で価数の異なるMg,Al,Pを微量添加した試料をホットプレス法(2373K,40MPa,5min)で作製し,ピン/ディスク型試験法(ピンにはαSiCを使用)により摩耗特性評価を行った.また,摩耗試験を行う前には,FE-SEM/EBSD/OIM結晶方位自動解析装置を用いて粒界微細組織を定量的に評価すると共に,FE-TEM/EDS法により粒界の化学組成の分析を行った.得られた結果の概略は次の通りである. 摩耗特性および摩耗特性に対する添加元素の影響は環境に著しく依存することが明らかとなった.湿度30%のドライな環境における摩擦係数は,微量元素無添加材では約O.8であるのに対し,Mgの添加により約0.4程度まで低下することが見出された.Al添加材では,摩擦距離の増加と共に摩擦係数が0.4〜0.6の範囲で変化し,安定したすべり特性が得られなかった.一方,摩擦環境の湿度が増加するに従い,摩擦係数は次第に低下し,湿度60%では,約0.2となった.また,湿度が高い環境下では,微量元素添加の有無および添加元素の種類による摩擦係数の相違がほとんど見られなくなった.平成12年度に行われた研究によりSiCへのMg添加はSiCの高温酸化,すななわSiO_2の形成を促進することが見出されており,ドライ環境下でのMg添加による摩擦係数の低下は,トライボケミカル反応によるSiO_2の形成が促進され,それらが潤滑の役割を果たすためであると推察される.
|