研究概要 |
炭化珪素は(SiC)は耐熱性,耐食性に優れていることから,ガスタービンや原子炉などの熱機関において極限環境下で用いられる次世代の材料として期待されて久しい.しかし,実用化のためには,粒界破壊,高温酸化脆化,耐摩耗性など粒界特性が深く関与する力学特性の向上が不可欠である.本研究では、炭化珪素の力学特性向上のための粒界微細組織,粒界化学構造の制御方法に関する知見を得ることを目的として以下の研究を行い,下記の知見が得られた. 1.粒界微細組織に及ぼす材料プロセスおよびドーパントの影響:周期律表の同一周期で価数の異なるMg, Al, Pを微量添加したβ-SiCをホットプレス法(HP)および放電プラズマ焼結法(SPS)により作製し,粒界微細組織に及ぼす焼結プロセス,ドーパントの影響を調査した結果,添加元素とSiとのイオン半径差が大きい元素ほど粒成長を促進すること,放電プラズマ焼結により低エネルギー対応粒界を高頻度に導入できることが見出された. 2.力学特性に及ぼす粒界微細組織の影響:破壊応力およびビッカース硬度は平均粒径が小さくなるにしたがい高くなるHall-Petchの関係が成り立つが,粒界性格分布の相違により粒径依存性が異なり,対応粒界頻度が高くなるにしたがい破壊応力、硬度が高くなる. 3.高温酸化および粒界酸化脆化に及ぼすドーパント,粒界微細組織の影響:微量元素添加したいずれの試料もパッシブ酸化により重量増加が起こり,特にMg添加材では他の試料に比べ1桁以上も酸化重量変化が大きかった.酸化後の破壊試験のより,パッシブ酸化が生じているにもかかわらず,粒界破壊に起因する酸化脆化が起こることが明らかになった.また,酸化脆化は粒径および粒界性格分布に依存し,ランダム粒界の頻度が低く,粒径が小さいほど抑制されることを見出した. 4.耐摩耗特性に及ぼすドーパント,環境の影響:摩耗特性および摩耗特性に対する添加元素の影響は環境に著しく依存することが明らかとなった.湿度30%のドライな環境における摩擦係数は,微量元素無添加材では約0.8であるのに対し,Mgの添加により約0.4程度まで低下することが見出された.A1添加材では,摩擦距離の増加と共に摩擦係数が0.4〜0.6の範囲で変化し,安定したすべり特性が得られなかった.一方,摩擦環境の湿度が増加するに従い,摩擦係数は次第に低下し,湿度60%では,約0.2となった.また,湿度が高い環境下では,微量元素添加の有無および添加元素の種類による摩擦係数の相違がほとんど見られなくなった.
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