Al-Zn-Mg-Cu系高力アルミニウム合金では応力腐食割れが従来から問題となっているが、そこでは水素脆化が重要な役割を果たしているとされる。またこの系の粗粒合金では、大気中において通常の引張速度(10^<-3>〜10^<-4>/s)で試験すると粒内割れを示して高い延性を示すのに対し、10^<-7>/s程度の低歪速度引張試験を行うと粒界割れによる低延性を示すことが知られている。本研究では重水素をトレーサとして、試験中に大気中の水蒸気から材料中に水素が侵入して、粒界割れによる脆化を示す事を実証しようとした。 まず低歪速度試験機に試料をセットした後に重水の入ったビーカーを引張試験片のそばに置いて周りをシールし、1.67x10^<-7>/sで約1%塑性変形を施した。その後、この試験片を質量分析計付き高真空材料試験機に移して引張試験を行った。その結果、上記重水蒸気に曝しただけの試験片からは弾性変形中から重水素を含むHD分子が検出されるものの、塑性変形域ではHDの放出量は漸減する事が示された。一方、重水蒸気を含む環境で1%の塑性変形を施した試験片からは、塑性変形中も試料から放出されたHDの水準は高い値のまま保たれた。また重水蒸気中での塑性変形量を増加させると、高真空試験機で破断後の粒界割れ破面率が増加した。このことから、低歪速度引張試験を行った場合の粒界割れによる低延性は、環境から導入された水素による水素脆化であることが、実験的に初めて明らかにされた。 一方、CrやZrを添加して結晶粒を微細化したA7075やA7050合金などの実用合金でも、ST方向で低歪速度引張試験を行うと粒界割れを伴う延性低下が見られ、粗粒合金より低延性を示した。これらは、組織に起因して、水素の侵入が容易になるためと考えられた。
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