研究概要 |
チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O_3,PZT)は優れた圧電性を示す強誘電セラミックスであり、その薄膜は、強誘電メモリー、センサー、マイクロアクチュエータ素子として広く用いられている。超音波センサーとしての性能指数向上のためには,多孔質構造とし,ポアをエポキシ樹脂で充填することが一般的な方法である.一方,C60は直径0.71nmの中空の球状分子であり,誘電率,音響インピーダンスともに,エポキシ樹脂に大変近い値を持っている.センサーとして有用なPZT薄膜をゾル・ゲル法で作製する場合は,通常600℃以上の高温焼成が必要のため,多孔質PZTを作製してから熱に弱い樹脂を充填しなければならないのに対し,C60を添加したPZTでは焼成温度を従来よりも200℃も低い400℃で作製できること,また,焼成後にPZT膜中にC60が分解しないで存在することが,申請者らによって明らかにされている.そこで,400℃でC60添加PZT積層膜の作製を行った.その結果,膜厚2μmのクラックの無い強誘電PZT膜を初めて得た.一方,界面活性剤やブロック共重合体をテンプレートとしたメゾポーラスPZTセラミックスを作製することを目指して,チタニアをマトリックスとした規則メゾポーラス薄膜の作製を世界に先駆けて成功させ,PZT系メゾ構造を得るための第一歩を築いた.また,液-液界面を利用してC60由来の数ミリメートルオーダーの長さの針状結晶を高速成長させる方法を開発した.この方法によって,針状新結晶の長さと直径を制御して,規則正しくPZT中に配向させることにより,C60内包規則メゾポーラス強誘電セラミックスの作製を可能とする新たな指針が得られた.
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