研究概要 |
本研究の目的は,カーボン60(C60)を規則的に配列させた強誘電PZT薄膜を作製し,その物性を評価することであり,平成12年度の研究において,C60を内包させたPZT積層膜の誘電物性評価に成功した.ところが,その過程において,透過電子顕微鏡による観察の結果,サブミクロンサイズ〜ミクロンサイズの直径を有するC60の単結晶繊維が生成していることを発見した.特に,小さな半径のものを,C60ナノウィスカー(C60NW)と命名した.C60NWは,これまでに報告の無い,フラーレンの新しい形態であり,将来大きく発展する可能性を有するものである.C60NWは,C60飽和トルエン溶液とイソプロピルアルコールの界面を形成させる液-液界面析出法(LLIP法)によって効率良く作製できるようになったので,これを特許申請した.C60NWの特徴は,(1)直径が小さいものほど耐電子線照射損傷性が高い,(2)C60の良溶媒であるトルエンに溶解しにくい,(3)成長軸がC60分子の最密充填方向である,(4)高い柔軟性を有し,30μmという小さな曲率半径でも弾性的に変形し,破断しない,(5)ヨーソなどの不純物元素をドープすることができる,(6)抵抗率が直径の減少ととも著しく低下する,(7)極めて平滑な表面と成長軸に沿って一定の直径を有する,(8)ほとんど真球状の先端を持つ,などの特徴を有する.さらに,液-液界面析出法をC70分子に適用して,C70の単結晶繊維(C70ナノウィスカー,C70NW)の作製に成功した.C70NWは,C60NWと同様にC70分子の最密充填方向に平行な成長軸を有するが,湾曲した形状を持つ.以上のフラーレンウィスカーをフィラーとして用いることにより,従来の性能を凌ぐ強誘電セラミックス超音波センサーの開発が可能になると期待される.
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