研究概要 |
1.緒言 セメンタイトは鉄鋼材料において最も基本的な構成相であるにもかかわらず、準安定であるため、これまで限られた研究しか行われていない。本研究では純鉄、合金元素とグラファイトをメカニカルアロイング(MA)した粉末を焼結することによって、純粋および合金セメンタイトバルク材を作製し、熱的安定性、機械的・物理的特性を調べた。 2.実験方法 純鉄、合金元素M(M=Si,Ni,Ti,Cr,Mn,Moなど)とグラファイト原料粉末を(Fe,M)_<75>C_<25>の組成で100時間MAした。得られたMA粉末を放電プラズマ焼結機(SPS)により1173K,50MPa,900sの条件で焼結した。焼結体の特性をXRD,DSC,SEM,熱膨張測定機、ヤング率測定機、マイクロビッカース硬度計、圧縮特性試験機により測定した。 3.実験結果 MAした粉末を焼結すると、セメンタイトを主相とする焼結体が作製できた。焼結体の相対密度は約98%であり、フェライト相を約10%含み純鉄に似た金属光沢をしていた。焼結体の硬さは10GPa,圧縮強度は2.8GPa,熱膨張係数は210℃以下では6.8×10^<-6>/K,以上では16.2×10^<-6>/K,電気伝導率は13/Ωcmであった。なお焼結体は熱的に不安定で加熱すると850K付近で分解が開始する。 Mn,Cr,MoではそれぞれFeの30%,20%,10%を合金元素で置換した合金セメンタイトが作製できた。しかし、Si,Ni,TiではFeの5%を置換した場合でも焼結体は大半がセメンタイト以外の相になった。Mn,Cr,Moを添加するとセメンタイトは熱的に安定化し、1273Kまで分解が起こらなくなった。合金を添加することによって硬さは増加するが、その傾向はCr,Mn,Moの順で顕著であった。CrやMnの添加によって室温でのヤング率の上昇、熱膨張率の増加、比熱の減少などが観察された。
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