研究概要 |
ウッドセラミックスは,廃木材を解繊後プレス加工によって製造した中密度繊維板(MDF板)に液状フェノール樹脂を含浸して乾燥後,800℃付近の温度で低真空中で焼成することによって得られる環境に優しいエコマテリアルである.今までの研究によって,800℃以上の比較的高温で焼成すると,電気抵抗率が急速に低下し,金属的性質を示すことから,電波を表面で反射する電波遮蔽(shield)材として有効であることが判明している. ところで,最近は携帯電話や,近距離通信網(LAN)等の発達により,1-10GHzの高周波域の有害電波による医療機器や航空機制御機器の誤作動による事故が社会問題化し,そのような高周波帯域の有害電波を遮蔽するだけでなく完全に吸収(absorb)してしまう材料の開発が急務となっている. 本年度の研究目的は,このMDF法で作製するウッドセラミックスに上記有害電波を吸収する能力を賦与することが出来るかどうか確認することにあった.そこで,半導体的性質を示すことが知られている600,650,700,750,800℃の5種の焼成温度を選び,各温度で4h保持後冷却した.焼成した各試料から,本年度購入した超音波加工機で円筒状試片を作製し,その電波吸収特性(複素反射係数,複素比誘電率,吸収係数)を本年度購入したネットワークアナライザで測定した,その結果を用いて,ウッドセラミックスを金属で裏打ちした実用吸収体モデルを用いて,各周波数の電波に対する吸収曲線を求めた.この結果と,X線回折結果,電気抵抗率測定結果,走査電子顕微鏡観察結果と対比して,その吸収のメカニズムを考察した.得られた結果は,次のとおりである. 1.650-700℃で焼成した場合,約7GHzの高周波域で最も顕著な吸収(約55dB)を示し,焼成温度の上昇とともに吸収量が低下し,吸収周波数も低周波域へ移行することがわかった.750-800℃で焼成した場合は,約0.8GHzで大きな吸収が現れ,吸収量は約45dBであった.600℃で焼成した試料は,顕著な吸収を示さなかった. 2.電気抵抗率,X線回折,走査電子顕微鏡観察の結果,650-700℃で顕著な吸収がおこるのは,その焼成温度が入射電波に対する導電損失と誘電損失を最も高める内部構造にウッドセラミックスを変化させた結果と考察された. 3.焼成温度を650-800℃の間で,細かく調整することによって,1-10GHz帯の広帯域の優れた電波吸収体を得ることが出来ることが判明した.
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