研究概要 |
本年度は,これまで報告されていない酸化初期に限定し,Fe-9mass%Cr(火STBA28相当材)の高温水蒸気酸化を行い,皮膜の剥離挙動を明らかにした.また,すでに我々の研究で内層の成長に気相が関与していることがわかっているので,内層の形成機構を明確にするため,内層の多孔性について検討した.鏡面研磨した試料を,脱酸したArガスを加湿したAr-15%H2O気流中で,試料近傍の酸素分圧をZrO2酸素センサーを用いて連続的に測定しながら973Kで水蒸気酸化した.酸化後の試料に対して,皮膜の剥離試験,組織観察,膜厚および試料の質量増加の測定を行った.試料近傍における酸素分圧の経時変化は,その挙動から次に示す3つの領域に大別できた.酸化開始直後,酸化前の値から3.6ks程度までに2桁減少する範囲を領域I,その後10ksまでに1桁上昇する範囲を領域II,以降酸化の進行と共に徐々に上昇する範囲を領域IIIとした.剥離試験を行ったところ,剥離は領域IIIのみで起こった.試料断面の組織観察から,皮膜は外層と内層から構成されており,この剥離は主に外層/内層界面で起こっていることがわかった.剥離試験後の界面の内層側表面,外層側表面を観察したところ,両表面に内層とは異なる薄い中間層が付着していた.この中間層はX線マイクロアナライザーの分析からFeとCrの酸化物であることがわかった.また,数mmのボイドが中間層を貫通する形で多数形成しており,皮膜の剥離応力はこのボイド径の-1/2乗に比例していることがわかった.これより,中間層近傍に存在するボイドと剥離には密接な関係があることを明らかにした.次に,内層の破断面を観察したところ,内層内部に0.5mm程度の微細な気孔が多数観察された.実際の皮膜の厚さと質量変化から計算される皮膜の厚さの違いを利用し,内層の気孔率を求めたところ約30%となり,非常に多孔質なものであることがわかった.膜厚を測定した結果,内層は直線的に成長しており,内層の成長には気相が関与していると考えることができる.
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