代表的大気汚染物質のひとつであり酸性雨の元凶ともなっているNOxは、その成因をサーマル、プロンプト、フューエルの3つに大別できる。この内サーマルNOxは、高温場で大気中のN_2とO_2が反応してできるものであり、適当な触媒が存在すればどこででも生成しうる。NOxは、特殊な条件を除けばNOが主成分であり、NOx対策はNO対策であると言い換えることができるが、触媒表面でのサーマルNOのケミカルな生成・分解機構については未だ不明である。本研究は、種々の酸化物表面におけるサーマルNOの生成・分解に焦点を絞り、ケミカルな反応速度を実測することを目的としている。触媒としてはエンジン等燃焼装置に用いられる鉄鋼材料の酸化皮膜を想定し、Fe_3O_4を用いた。まずN_2-O_2混合ガスからのNO生成速度を測定したところ、ガス流量の影響を完全には無視できず、ガス側物質移動抵抗が関与した速度しか測定できなかった。そこで当初の計画通りアイソトープ交換法を採用するために、予備実験を行ったが、^<15>NOアイソトープに相当する質量数31のマスピークバックグラウンドが大きく、精度の高い測定が困難であった。そこで本研究では、Fe_3O_4表面にAr-NO混合ガスを吹き付けて、NOの分解速度を測定することとした。その結果、Fe_3O_4上でNOは分解し、600〜950℃の温度範囲では分解速度はガス流量に独立であることから、触媒表面における化学反応が律速していることがわかった。この条件では、速度はNO分圧の1次に比例し、NO分子の解離が支配的であることが示唆された。化学反応速度の見掛けの活性化エネルギーは約400kJと、温度依存性が非常に大きいことがわかった。触媒としてTiO_2やCr_2O_3も用いたが、Cr_2O_3も分解触媒として作用することがわかったので、本研究では、触媒組成を連続的に変化させた時の基礎データとして必要な、鉄クロマイト固溶体の熱力学的性質を直接測定した。今後はこの鉄クロマイト固溶体表面でのNOの分解速度を測定していく計画である。
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