この研究は報告者が提案した概念である"人工資源に対するメタルロンダリング"を基盤として計画された。高度産業化社会の生み出す人工資源は、自然から得られる鉱産資源と異なり、従来の製錬技術が経験していない元素の組み合わせを持つ。われわれの手許には、この種の人工資源として、焼却残渣や下水汚泥の減容処理で生ずる炉底メタル等の実例がある。下水汚泥を直流電気抵抗炉で還元溶融する時に得られた「クロム-リン-鉄」人工資源の実例を対象に、その湿式製錬法による回収を企画した。計画当初は、酸化溶解法、硫酸溶解法、食塩-塩酸溶解法の3っつのスキームを考えたが、酸化溶解法は基礎実験の段階で計画から外した。残る二つのスキームのそれぞれについて、鍵となるプロセスの基礎実験を行った。 報告は3章からなり、第1章では、研究の背景、全体概念および、基礎実験結果を踏まえての処理プロセスの提案を行った。第2章ではスキームIの中心になるFe(II)、および亜リン酸の酸素ガスによる液相酸化に対するSO_2添加の促進効果に関する研究結果を記述した。酸性溶液でのO_2+SO_2ガスによるFe(II)は零次反応で進行し、反応速度のパラメーターとして、50%酸化時間T_<50>を使って解析できる。第3章ではスキームIIの中心になる食塩-塩酸溶媒による溶解法の基礎研究を記述した。この溶媒では食塩の効果として塩酸濃度を下げても溶解速度を維持できることと、Fe-Cr合金に対しても大きな溶解速度を示すことが示された。また溶解速度は温度に対して約60kJ/molの活性化エネルギーを示し、温度の効果が大きい。 廃棄物減容処理から生ずる炉底メタルは、廃棄を前提に生産されるが、これをゼロ価格の資源として、場合によって、高濃度に含まれる有用元素、特にリン、クロムなどの回収に利用することは、重要な技術的課題となる。今回の報告はそのような技術に対する一つの貢献を目指した。
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